中国は言わずと知れた卓球王国であり、その強さは卓球ファンならずともよく知るところとなっています。その強さは、中国以外の全世界のオールスターチームを集めたチームでも中国に到底太刀打ちできないと言われているほどです。
当然そんな中国選手の中には、実力以上に不遇をかこう選手たちも山ほどいます。そんな中から勝ち残った一握りのエリートだけが国際舞台での活躍を許されているのです。
ここでご紹介する元世界ランク1位の劉詩雯(りゅうしぶん/リュウシウェン)はそんな中国の熾烈な競争を勝ち抜いてきたトップクラスの実力ながら、中国ならではの層の厚さに不遇を囲っているプレーヤーといってもいいかもしれません。
女子世界ランキング2位・劉詩文(りゅうしぶん/リュウシウェン) 右シェークハンドドライブ型
生年月日 :1991年4月12日生まれの27歳
出 身 地 :中国遼寧省
効 き 腕 :右
グリップ :シェークハンド
ラケット :劉詩文ZLF
フォアラバー:国狂NEO3ブルースポンジ
バックラバー:国狂3(50号スポンジ)
タ イ プ :ドライブ攻撃型
世界ランク :10位(2018年4月時点)
正式な漢字名は劉詩雯ですが、雯という漢字は日本の常用漢字には無いため、しばしば日本では劉詩文とか劉詩ブン、或いは劉詩ウェンなどという表記も見られます。実に日本のメディア泣かせな名前です(笑)。
わたしの勝手な思い込みかもしれませんが、日本で人気の出る中国人卓球選手って、割と日本語で読みやすい名前の人が多い気がします。今でいえば馬龍や丁寧なんてその典型ですよね。もちろん二人とも現役世界王者であり、実力的にも世界の頂点に立つ選手なのですが・・やっぱり名前の親しみやすさは日本での人気に少なからず左右するような気がします。
そういう意味では非常に日本人にとっては敷居の高い(?)、劉詩雯。でもこの劉詩雯は日本でかなりの人気を誇っています。その理由はなんなのでしょうか。
世界卓球モスクワ決勝でシンガポール戦敗戦の戦犯となり暗転した卓球人生
劉詩文といえば昨年2016年のリオデジャネイロオリンピック女子団体の金メダルメンバーとして日本でも知名度が増しました。しかし元々中国を担う存在として、ジュニアの頃から大満貫(五輪、世界卓球選手権、W杯の三冠)を達成した丁寧や李暁霞(りぎょうか)らと同様に期待された選手でした。しかし、大満貫を達成した丁寧と李暁霞とは世界三大大会での実績で大きく差を空けられることとなってしまいました。
その大きな理由は、世代交代を成し遂げた若い世代を中心としたメンバーで中国女子が臨んだ2010年の世界卓球選手権モスクワ大会でしょう。
1993年のイエテボリ大会以来、圧倒的強さで女子団体8連覇を果たしていた中国女子チームは、2010モスクワ大会でも丁寧や劉詩雯、李暁霞に郭躍や郭炎などを擁して圧倒的な強さで決勝へ進出し、シンガポールと優勝をかけて対決しました。ぶっちゃけ、世界中のほとんどの人は中国の優勝を信じて疑わなかったでしょう。わたしもそうでしたが、シンガポールが一人でも勝てるかどうか?くらいの興味でした。
しかし、結果は1-3でシンガポールが中国を降し、世界卓球初優勝を成し遂げたのです。中国の3敗の内訳は、丁寧が馮天薇(フォン・ティエンウェイ)に負け、エース格として起用された劉詩雯がまさかの馮天薇と王越古(ワン・ユエグ)に2敗を喫するという内容でした。
この敗戦は中国国内でも代表への大バッシングへと発展し、中でも2敗を喫した劉詩雯は最大級の戦犯として叩かれるとともに、大舞台に弱い選手としてレッテルを貼られることとなってしまったのです。
その後は常に世界ランキングはトップ3以内を維持したにも関わらず、ロンドン五輪では団体・個人ともに代表漏れ、ランキング1位で臨んだリオ五輪でも団体メンバーには選ばれたものの、シングルスではランキング下位だった丁寧と李暁霞に代表枠を奪われてしまいました。
結果として劉詩雯は大満貫を達成するのに必要なオリンピックシングルスに挑戦する機会さえ未だに与えられていないという現状に甘んじています。
大舞台に弱い劉詩雯。まずその中国国内での評価を覆すためにも2017世界卓球ドイツ・デュッセルドルフ大会のシングルス優勝を狙ってくるでしょう。悲願の世界卓球選手権優勝を目指す日本人選手にはあまりにも大きな壁といえるでしょう。
小柄な日本人選手が理想とするスピード卓球とミスのない世界一のカット打ち
上の動画は、2016ジャパンオープン荻村杯での丁寧との女子頂上決戦の模様です。大満貫達成者である丁寧を見事に破った会心の試合ですね。
中国女子は近年大型化が進んでおりそれは丁寧や李暁霞にも顕著なのですが、この劉詩雯は中国トップ選手の中ではかなり小柄な部類に入ります。日本人選手に近い身長といってもいいでしょう。実際にプライベートでも仲のいい福原愛選手とは、どちらが背が高いか競い合っているくらいですから(笑)。
日本人とほぼ同じ体格ながら、フィジカルに秀でた中国人選手に交じって世界のトップにいられる秘密は、その天才的ともいわれる天性のボールタッチを始めとした卓球センスでしょう。前陣でのスピード勝負で相手を打ち破るそのスタイルは、しばしば日本人卓球選手の理想とするプレイヤーといわれてきました。
確かに前陣で打点の高い速いドライブを放って相手ブロックを打ち破り、先手を取られて打たれてもブロックでカウンターを仕掛けるという攻守一体となった前陣ドライブ攻撃は、フィジカル的に欧米選手などと比べてハンデを背負っている日本人選手にとっては理想といわれてきたスタイルですし、そんな理想的なスタイルを体現しているのが劉詩雯という選手なのです。
しかし当然のことながら、日本人選手がこのレベルに達するのは並大抵のことではありません。劉詩雯の凄さは、あの小柄な体格ながら世界一ともいわれるほどのカット打ちの名手という点にもあります。
普通は体格の小さい選手は、打球のパワーやスピード、回転が足りなくなりがちであり、カットマンの分厚い守備を打ち破る事に苦労するためにカットマンを苦手とする選手が多いです。体格に劣る日本人選手にもカットマンを苦手とする選手は多いです。リオ五輪の女子シングルスで石川佳純、福原愛ともに北朝鮮のカットマン、キム・ソンイに敗れたのはその象徴といってもいいかもしれません。しかし同じような体格でありながら劉詩雯の対カットマンは圧倒的な強さを誇ります。わたしは現在の女子選手で一番カットマンに強い選手だと思いますね。強いドライブでカット打ちをしますが、回転の見極めを見間違えた凡ミスなどはほとんどありません。相手のカウンターも鉄壁の守備で防ぐなど、カットマンに苦しめられる日本人にはこの点でも大いに参考に出来る選手です。
とにかく、日本人が目指すべき選手なのは間違いありません。学ぶべき部分ばかりですね。そういえば、先日中国の丁寧、朱雨玲、陳夢の中国人トップ選手たちをことごとく破ってアジア選手権優勝を果たした平野美宇選手は、劉詩雯選手の後継者といってもいいプレースタイルへと進化しているように感じましたね。これからが本当に楽しみです。
丁寧との二強時代到来?朱雨玲や陳夢ら中国勢の争いに日本選手は割って入れるか?
日本のスター選手、福原愛選手との親友秘話などでの親しみやすさに加え、男子人気選手である「大満貫」達成の張継科選手との交際、さらにはその愛らしいルックスと相反する程の苛烈な攻撃卓球とのギャップなどで日本にもファンの多い劉詩雯選手。
劉詩雯、丁寧とともに長らく中国女子三強とも称されたうちの一人、李暁霞選手は昨年のリオデジャネイロ五輪を最後に引退しました。中国女子の時代は丁寧、劉詩雯の二強に朱雨玲や陳夢といった若手が絡むという構図に変化しつつあります。
そんな中、実力的には丁寧、李暁霞と同等かそれ以上とまで評された劉詩雯の反撃がいよいよ始まるのでしょうか。丁寧と李暁霞は過去に中国女子卓球界で5人しか成し遂げていない「大満貫」の達成者となりました。劉詩雯がこれに追いつくためには世界選手権とオリンピックの優勝が必要です。年齢的に恐らく劉詩雯の五輪出場は次の東京五輪が最後となるでしょう。そこでの優勝の前にまずは世界卓球選手権ドイツ大会で必勝を期してくるはずです。
実は日本人選手が全く勝てない中国人選手がこの劉詩雯選手です。スピードで対抗する選手の多い日本人にとって、そのスピードで対抗されて長所を消されてしまうこの劉詩雯選手のプレースタイルは天敵といってもいいものともいえます。
しかし日本が再び卓球王国となるための栄光を得るためには当然超えなければならない壁です。劉詩雯を目指しながら東京五輪までには追い抜いているくらいの覚悟で向かって行ってほしいですね。
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