開会式直後の8月6日から始まるリオオリンピックテニス競技の男子シングルス。
注目は何といっても世界ランキング6位をキープしたままリオへ乗り込んできた錦織圭。
錦織がメダルを獲得する事になれば、1920年のアントワープオリンピック以来、実に96年ぶりの快挙という事になります。1920年といえば、昭和を更にさかのぼって大正9年という事になります。これだけでもどれだけ凄い事かお分かりいただけるかと思います。
ここでは錦織圭選手の対戦相手や試合展望、さらにライバルチェックなどをしていきたいと思います。
リオ五輪テニス男子シングルスのルール、システム解説
まずはリオオリンピックでのテニス男子シングルス競技の簡単なシステムやルールなどを説明します。
テニスコートはハードコートで行われます。
3セットマッチで行われ、2セット先取で勝利という事となります。
ゲームカウントが6-6になればタイブレークに持ち込まれ、タイブレークを制した方がそのセットに勝利するという事になります。なお、全てのセットでタイブレーク制が採用される事となります。
男子シングルスの参加選手は64選手。これらの選手たちがトーナメント方式で勝ち上がっていき、優勝者(金メダリスト)を決めます。準決勝で負ければ、準決勝で負けた選手同士が3位決定戦を行い、勝った方が銅メダリストとなります。
つまり、優勝するためには6試合戦わなければならないという事になります。銅メダル獲得者も3決がありますので、同じく6試合を戦わなければなりません。
初戦はスペインのクレー巧者・ラモスと対戦 ハードでは錦織圧倒的有利か?
錦織選手のメダル獲得のために大きく関わってくるのがドロー(組合せ)です。そして、日本時間の8月5日にリオオリンピックテニス男子シングルスの組み合わせが決定しましたので、その結果を見ながら錦織選手の試合展望や対戦成績、ライバルとの相性などを見ていきましょう。
まずは1回戦です。
1回戦の相手は世界ランキング33位のアルベルト・ラモス=ヴィノラス(スペイン)に決定しました。
錦織圭との通算対戦成績は、錦織の3勝1敗。サーフェス別でみると、ハードコートで1勝0敗、クレーコートで2勝1敗となっています。
唯一のハードコートでの対戦は4年前、2012年のマレーシアオープン。この時には錦織が6-7,6-2,6-1の2-1で競り勝っています。
もちろん世界ランキング33位なので油断はできませんが、正直現在の錦織であれば何の問題もない相手だと思います。
というのもこのラモス選手というのは、典型的なクレー巧者だからです。元々スペインの選手はクレーで強い選手が多いのですが、このラモス選手もまさにそうです。クレーだと非常に厄介な相手ですが、ハードでは錦織選手にとってはイージーな相手だと言えるでしょう。
あとは後々の事を考えて、いかに疲弊せずにスタミナを温存して勝つかという事でしょう。ストレートで勝っておかなければならないと思います。
世界ランキング23位のコールシュライバー戦もスタミナ温存できるような戦いを
2回戦の相手は順当にいけば、第13シードの世界ランキング23位、フィリップ・コールシュライバー(ドイツ)が濃厚です。
錦織圭との対戦はたったの一度だけ。今年のグランドスラム、全豪オープンでの対戦です。ハードコートでのこの試合では錦織選手が6-4、6-3、6-3の3-0ストレート勝ちを収めています。
コールシュライバーといえば、178cmと現代のテニス選手としては小柄でありながら息の長い活躍をしている32歳のベテラン選手ですね。グラスコートが最も得意ですが、サーフェスによる得意不得意もそれほどなく、ハードとクレーでも安定したプレーをする選手です。
対戦成績がたった一度という事であまり大きな事は言えませんが、この選手も錦織選手にとってはそれほどやりにくい選手ではないでしょう。安定はしていますが、ビッグサーバーのような確変した時の一発というタイプではありませんし、ガンガンウイナーやエースを奪うタイプでもありません。
比較的長いラリーになる傾向の試合になるでしょうが、ミスさえしなければ有利に試合を進める事が出来るはずです。
当然ここもスタミナのロスを少なくするためにストレートできっちり勝っておきたい相手ですね。
ムラのあるモンフィスの確変時に要注意 テニス界一のフィジカルモンスター
2回戦に勝利すればいよいよベスト8に進出、準々決勝を戦う事となります。
ここでの有力候補は第6シードの世界ランキング11位、ガエル・モンフィス(フランス)でしょう。同34位のグリゴール・ディミトロフ辺りも怖いですが、今季絶好調のモンフィスが最も厄介な敵である事は間違いなく、勢いから見てもモンフィスが最有力でしょう。
モンフィスと錦織の通算対戦成績は錦織の2勝0敗。内訳はハードコートとグラスコートで1試合づつ戦っています。
この戦績だけを見ると錦織有利に見えますが、唯一のハードでの対戦となった今年のATPマスターズ1000、マイアミオープンではどちらが勝ってもおかしくない激闘でした。試合内容は4-6,6-3,7-6の2-1。最後はタイブレークを制した錦織がなんとか勝ちましたが、まさに薄氷を踏む勝利でしたね。
ここも非常に厳しい戦いとなる事は間違いないでしょう。モンフィスといえば何といってもテニス界一ともいわれる身体能力が有名です。なんせ、ジュニア時代はフランス国内の100m走チャンピオンだったのです。当然オリンピックを期待されましたが、彼が選んだのはプロテニスプレーヤーの道でした。
とにかくアクロバティックな選手で、その身体能力の高さから信じられないようなプレーを連発し、テニス界でも有数の人気選手です。ただし弱点はムラがある事。
凄い時はとにかく手が付けられない状態ですが、ダメな時はからっきしダメ、というその日になってみなければ分からないという選手です。
しかし逆に言えば、いい時のモンフィスと対戦するときは本当に恐ろしい敵へと変貌するという事です。
錦織にとってはモンフィスの状態次第で試合展開は大きく左右される事となるでしょう。とはいえ、マイアミオープンでのモンフィスは間違いなく確変した状態でのモンフィスでした。その状態のモンフィスに勝ったのですから自信を持って戦っていいと思います。
ただ・・・・やっぱりダメな時のモンフィスの方が楽ですよね(笑)。
世界2位のマレー戦は好ゲーム必至 通算対戦成績ほどの差は無い
準決勝はやはりこの男との対戦となるんでしょうね。
世界ランク2位のアンディ・マレー(イギリス)です。前回ロンドンオリンピックの金メダリストであり、五輪二連覇を狙う選手です。
錦織圭とマレーの通算対戦成績は錦織の1勝6敗。サーフェス別に見ると、ハードで1勝5敗、クレーで0勝1敗となっています。錦織の唯一の勝利は2015年のATPツアーファイナルでの6-4.6-4の2-0勝ちです。
戦績を見るとマレー圧倒的有利に思えますが、最近の成績は接戦が目立っています。直近のデビスカップ(ハード)での対戦では、7-5,7-6、3-6,4-6,6-3の大接戦を演じています。
絶対王者・ジョコビッチと同タイプの守備、攻撃のバランスの取れたパーフェクトスタイルのマレーですが、ジョコビッチに比べると守備面では付け入るスキがあると思います。
ただし、ジョコビッチとは違ってスライスなどを織り交ぜた緩急をつけた攻撃で錦織のベースラインでの速い展開を封じるというのが最近の錦織との対戦では目立っています。錦織得意の早いストローク戦につき合ってくれないという事ですね。
マレーとの対戦ではこの辺りの対策が必要になってくるでしょう。錦織がケガなくベストコンディションを維持したままここに上がってこれれば、間違いなく素晴らしい試合となるでしょう。勝機は十分にありますし、二度目のマレー撃破もそう困難なミッションではないと思いますね。
ジョコビッチは厳しいブロックに 初戦からいきなりケガから復活のデルポトロ
さあ、ここまで見てきてもうお気づきですよね?
そうです、今回錦織圭は絶対王者・ジョコビッチとは反対のブロックに入ったので決勝までは対戦しないのです。
これは大変大きなアドバンテージだといえますね。何といってもジョコビッチの実力は現在の男子プロテニス界では2枚も3枚も抜けています。
という事で、錦織圭が決勝まで来ることが出来たのであれば、決勝はジョコビッチとの対戦が濃厚となるとは思います。
「なるとは」と書いたのは、ジョコビッチのブロックにかなり難敵、くせ者が揃っているからです。
初戦からいきなりかつてのグランドスラム王者でケガから復活したフアン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)という、恐らく1回戦で当たるであろう選手の中では最も誰もが対戦したくない選手になってしまいました。
そして3回戦で対戦が予想されるのがビッグサーバー、アメリカのジャック・ソック。典型的なハードコートプレイヤーであり、サービスの調子の良い時には手の付けられない選手へと変貌します。
準々決勝での対戦が予想されるのがジョー・ウィルフリード・ツォンガ(フランス)。この選手もムラがあるのが難点ですが、ひとたび調子の乗せるとジョコビッチさえ食ってしまうほどの爆発力を秘めています。
そして準決勝で待ち受けると思われるのが、北京金メダリストであり、現役選手唯一のゴールデンスラム達成者(グランドスラム4大会とオリンピック全てで優勝する事)、ラファエル・ナダル(スペイン)。当然簡単な試合になるわけがありません。
というわけで、ジョコビッチとはいえどこかで足を掬われてもおかしくない程の強敵が待ち構えています。錦織がこのブロックでなくて本当に良かったと思えるほど嫌な相手ばかりですね。
グランドスラムを全て制し、このリオでゴールデンスラムを達成したいという野望を秘めたジョコビッチですが、その道のりは決して平たんではありません。決勝までたどりつけない可能性も大いにあると思いますね。
名誉以外のメリットがないオリンピック出場を決意した錦織圭
錦織圭選手にとってこのオリンピックというのは、グランドスラムやマスターズなどとは全く違うモチベーションだといいます。お金やツアーポイントのためではない、名誉を賭けた戦いだと。
ベルディヒやラオニッチ、ティエムなど、トップ10選手が大会前から早々に辞退するという事となったこのリオオリンピックのテニス。しかしジョコビッチ、マレー、ナダル、錦織などのトップ6選手は全て出場しています(フェデラーとワウリンカは登録していたがケガで欠場)。
オリンピックというのは、普段テニスをあまり見ない人たちにもテニスという競技の面白さや醍醐味をアピールする絶好の機会だと思います。いってみれば、テニスを普及させるのにはもってこいの場でもあります。テニス界のトップ選手たちには出場する責任があると個人的には思っています。
確かにツアーポイントを加算したい選手には何のメリットもありませんし、すぐ後にはグランドスラムの全米オープンが控えています。ツアーファイナル出場権ギリギリを争っているラオニッチ、ベルディヒ、ティエムなどが欠場したのにはその辺りの計算もあっての事なのでしょう(表向きはジカ熱や治安面での不安という理由)。
ただし、結果的にどうなるかはわかりませんが、錦織圭がオリンピック出場を選択した事は一人の日本人として、そしてテニスファンとして非常に嬉しく思います。
96年ぶりとなる日本人のメダル獲得へ、大きな声援を送りたいですね。
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