日本人プロテニス選手、錦織圭の活躍によって日本でもテニス人気が飛躍的に高まってきたここ数年。テレビ中継やスポーツニュース等で取り上げられる機会も多くなり、10年前とは比べ物にならないほど、メディアでテニスを目にするようになりました。
そんな中、錦織圭選手を取り上げるニュース等において、必ずと言っていいほど錦織選手の名前と共に紹介されるのが世界ランキング。「世界ランキング〇位の錦織圭選手が3回戦に登場し・・」とかという風によくスポーツニュース等でも取り上げられますよね?
これは錦織選手の現在の強さを表すためという側面も勿論あるのですが、それ以上にプロテニス界において世界ランキングというのが何よりも重要であるという事を示しているという事でもあるのです。
ATPワールドツアーのポイントに大きく影響するカテゴリー(範疇)とは?
男子プロテニスツアーにおける世界ランキングというのは、ATP(男子プロテニス協会)に所属するプロテニス選手が、ATPの主催するワールドツアーの各大会での成績によって決定されます。
ATPツアーの各大会の成績に応じて各選手には賞金とともにポイントが加算されていきます。このポイントの獲得数の多い順に世界ランキングが決定されていくのです。
ちなみに、獲得ポイント数はATPの主催するツアーの規模によって大いに異なります。簡単にいえば、規模の大きな大会で良い成績を残す程ポイントは多くもらえるようになっており、自然と大きな大会で頑張れば頑張るほどランキングは上がりやすくなっていくという事になります。
以下がATPツアーの大まかなカテゴリー(範疇)となります。上から順に規模の大きさを現しています。
グランドスラム
ATPワールドツアーファイナル
マスターズ1000
500シリーズ
250シリーズ
ATPチャレンジャーツアー
ITF男子サーキット
チャレンジャーツアー以下の大会は世界ランキング50位以下の選手が出場する大会のため、錦織圭選手を含むトップクラスの選手が出場するのは250シリーズ以上の大会という事になります。
グランドスラム(4大大会)、マスターズ1000など主要カテゴリーの大会一覧
それでは、各カテゴリーにどのような大会があるのかを見ていきましょう(250シリーズ以上の大会で)。
グランドスラム
全英オープン(ウインブルドン)
全米オープン
全仏オープン(ローランギャロス)
全豪オープン
ワールドツアーファイナル
マスターズ1000
BNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ)
ソニー・オープン(マイアミ)
モンテカルロ・マスターズ
マドリード・オープン
BNLイタリア国際(ローマ)
ロジャーズ・カップ(カナダ)
ウエスタン&サザン・オープン(シンシナティ)
上海・ロレックス・マスターズ
BNPパリバ・マスターズ(パリ)
マスターズ500
ABNアムロ世界テニス・トーナメント
リオ・オープン
ドバイ・テニス選手権
アビエルト・メキシコ・テルセル
バルセロナ・オープン・バンコ・サバデル
ゲリー・ウェバー・オープン
エイゴン選手権
ドイツ国際オープン
シティ・オープン
チャイナ・オープン
楽天ジャパンオープン
スイス・インドア
エルステ・バンク・オープン
マスターズ250
1年間に39大会が開催される
ATPワールドツアー各大会で獲得できるポイント
それでは次に、各大会でどれだけのポイント数が獲得できるのかご紹介しましょう。
大会カテゴリー 優勝 準優勝 ベスト4 ベスト8 ベスト16
グランドスラム 2000 1200 720 360 180
ツアーファイナル 900 400(予選1勝毎に200ポイント加算)
マスターズ1000 1000 600 360 180 90
500シリーズ 500 350 180 90 45
250シリーズ 250 150 90 45 20
これが大まかなポイント数です。ベスト32以下もごくわずかですがポイントは加算されます。
こう見てみれば、いかにグランドスラムが重要な大会かがわかりますね。グランドスラム1つ優勝するだけで、500シリーズの4勝分、250シリーズだと8勝分に相当するほどのポイント数です。まあだからこそなかなかグランドスラムはとれないのですが・・(苦笑)
世界ランキングを決めるエントリーランキングとレースランキングの違いは?
上に述べた各カテゴリーの大会に参加した成績によって加算されるポイントの総獲得ポイントの過多によって、男子プロテニス選手の世界ランキングは決定される事となります。
そして、これはあまり知られていないのですが、世界ランキングには2種類のランキングがあるのです。エントリーランキングとレースランキングといいます。
それではエントリーランキングとレースランキングの違いをご説明しましょう。
エントリーランキング
これはワールドツアーで獲得したポイントが、獲得から1年間保持されるランキングの事です。ニュースやテニス中継等での選手紹介の際のランキングはこのエントリーランキングとなります。
例を出してご説明しましょう。例えば今年(2016年)の錦織圭選手の全米オープン。2016全米オープンで錦織選手はベスト4に進出しました。この成績によって錦織選手は720ポイントを獲得しました。この720ポイントは次の年、つまり2017年の全米オープンまで錦織選手の獲得ポイントから消える事はありません。
しかし2017年の全米オープンが終われば、2016年に獲得した720ポイントは消滅します。例えば錦織選手が2017年の全米オープンでベスト16で敗れたとしましょう。すると、2017年の全米オープンでは180ポイントを獲得しましたが、同時に2016年の720ポイントが消えてしまうので、180-720で-540ポイントとなります。ポイントは540ポイント減ってしまうのです。
錦織選手が獲得ポイントを維持しようとすれば、最低でも前年と同じベスト4まで進出する必要があるという事です。仮に2017全米オープンで優勝した場合、獲得ポイントが2000、消失ポイントが720なので、1280ポイントを加算できるというわけです。
そうなのです。前年に素晴らしい成績を残したとしても、そのポイントを維持するためには次の年も同じだけの成績を残さなければなりません。これこそ、テニス界の世界ランキングが一番過酷と言われる所以であり、それ故にプロスポーツ界で最も実力を繁栄しているランキングと言われる所以でもあるのです。
レースランキング
レースランキングとは、獲得ポイントが年始でリセットされるランキングです。2016年に10000ポイントを獲得した選手も、500ポイントしか獲得していない選手も、年が変わって2017年になれば全選手が0ポイントからスタートします。純粋にその年に稼いだポイント数だけを反映したランキングです。
このレースランキングは、ツアーファイナルに進出する選手を選ぶ際に重要視されます。
ちなみに、ツアーファイナルはその年の獲得ポイントの最も多かった上位8選手のみが参加できる、ワールドツアーではグランドスラムの次に権威ある大会です。
しかしレースランキングは逆にいえばツアーファイナル以外にはあまり重要視されませんので、基本はやはりエントリーランキングという事になっているのが実情ですね。
出られるトーナメント全てに出場してもポイント荒稼ぎは出来ない仕組み
ここでふとした疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「獲得ポイントで世界ランキングが決まるのであれば、出られる大会すべてに出ればいいじゃん。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって感じで」
と。
しかしそこもATPはしっかり考えています。獲得ポイント数に反映されるのは、ポイントを獲得した上位18大会のみなのです。つまり、30大会くらいに出まくってポイントを重ねたとしても、獲得できるポイントは18大会分だけなのです。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法は無駄ですよ♪って事です(笑)。
というわけで、プロテニス選手はどの大会に出場するのかをしっかりと戦略的に考える必要があります。この辺りもプロテニスを楽しむコツかもしれません。
獲得ポイントの大きな上位カテゴリーの大会に出て大きく狙っていくのか?トップ選手がいないカテゴリーの低い大会を狙って確実にポイントを取りに行くのか?など、どの選手がどの大会に出てくるのかはなかなか面白いですよ。
世界ランクトップ30選手に重くのしかかる、出場を義務付けられたトーナメント
ちなみに、前年の世界ランキング30位以内のトップ選手たちには出場試合が義務付けられる大会があります。以下がその条件です。
- グランドスラム4大会すべて
- マスターズ1000のうち、モンテカルロを除く8大会すべて
- 500シリーズのうち4大会(うち1大会は全米オープン後の大会)
はい、これだけで16大会です。トップ選手に残された残りの大会は2大会だけとなります。従って、トップ選手は4大大会(グランドスラム)、モンテカルロを除くマスターズ1000にはケガなどが無い限りは必ず出場してきます。だからこそ、グランドスラムやマスターズは強豪揃いの非常に難易度の高いトーナメントになるというわけですね。
トップ選手たちがほとんど250シリーズに出場しないのはこのような理由があるからです。ポイントが反映される18大会のうち16大会は500シリーズ以上が義務付けられている以上、残る2試合は少しでもポイントの高いトーナメントに参加したいですよね。つまりモンテカルロ・マスターズか500シリーズという事です。上位選手のほとんどいない250シリーズで敢えてポイントを稼ぐという考え方もありますが、まあそこも戦略性によってという事になりますね。
そしてもう一つ、ATPワールドツアー1年の最終を締めくくるワールドツアーファイナルですが、この大会だけはツアーポイント加算の対象となる18大会には含まれません。つまり、ツアーファイナルに出場できる8選手だけは、ツアーファイナルを含めた19大会分のポイントがランキング対象大会となるという事です。簡単にいえば、ツアーファイナルは年度末の臨時ボーナスのようなものですね。
まとめ テニスの世界ランクが世界一実力を反映しているといわれる理由
それでは最後にプロテニス世界ランキングの決め方を簡単にまとめておきましょう。
- 世界ランキングはATPツアーの成績によって得られるポイント数で決まる
- ツアーにはカテゴリーがあり、大会の規模によってポイント数が大きく違う
- ランクはエントリーランキングという、1年間ポイント維持される計算法で決定される
- 何大会に出てもポイントが獲得できるのは18大会のみ
- ツアーファイナルだけは18大会とは別枠でポイント加算される
- 世界ランキングトップ30選手は予め16大会の出場を義務付けられる
という事ですね。他のプロスポーツなどにも世界ランキングはありますが、本当にこれだけ過酷なランキング決定システムをわたしは知りません。
以前、あるテレビ番組に出演していたかつての日本を代表する女子プロテニス選手の沢松奈生子氏は、現役中はランキングとポイントの事ばかり考えていたと言っていました。引退した後、これでランキングの事を考えなくてもいいという安堵感が大きかったとも。
プロテニス選手にとって、出場できる大会や大会でのシード権などが決定される世界ランキングは生命線とも言っていいほど重要なものです。だからこそプロテニス界の世界ランキング決定システムは最も厳しく、だからこそ最も公平なのです。
逆に言うと、この過酷なシステムの中で長年世界のトップ4と呼ばれていたロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(イギリス)がどれだけ凄いかというのも見えてきますよね。
そしてこんな選手たちのいる中、そしてこれだけ厳しい世界ランク決定システムの中で世界ランキング4位に入っている(2016.11月現在)錦織圭という選手の凄さも・・
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