ネットを中心としたスラングに「人外」という言葉があります。
人外とは読んで字の通り、人間の領域を超えた存在という意味です。この人外とは誰の事を指すのか?
それは現在のテニス界に君臨する4人のトッププレーヤー、
- ロジャー・フェデラー(スイス)
- ラファエル・ナダル(スペイン)
- アンディ・マレー(イギリス)
- ノバク・ジョコビッチ(セルビア)
の四人の事を言います。今回はそのテニス界4人の「人外」の一人、アンディ・マレーについてみていきたいと思います。
ジョコとともに二強時代を築くマレーのプロフィール
本 名:アンドリュー・バロン・マレー
生年月日:1987年5月15日生まれの29歳
出 身:スコットランド・ダンブレーン
身長体重:190cm 84kg
利き腕 :右
バックハンド:両手打ち
2,3年前まではこのマレーとジョコビッチ、ナダル、フェデラーの4人がビッグ4、あるいは4強、ネットなどでは「人外」と呼ばれて上位勢を形成していたのですが、2015年辺りからその構図は崩れつつあります。
ナダルとフェデラーは年齢的な事もあってケガが多くなり、欠場というパターンが多くなってきました。その中でランキング1位を守り続けて頭一つ抜け出したのがノバク・ジョコビッチです。
しかし2016年に入るとランキング2位のマレーが猛追。男子プロテニス界は完全にジョコビッチ、マレーの二強時代に突入したと言えるかもしれません。
錦織圭にとってはジョコビッチのみならず、マレーと言う強敵もこれから大きく立ちはだかってくることとなるでしょう。
マレーとマリー、メディアによって違う名前はどちらが正解なの?
まず、最初に断っておきます。メディアによっては「アンディ・マリー」と呼ぶ場合もありますが、ここでは英語表記に従って「アンディ・マレー」と呼ぶことで統一します。
うちの母も聞いてきたのですが、マレーとマリー、呼び方がテレビ局によって違うんだけど、どっちが本当の呼び名なの?と疑問に思う方も多いと思います。
ハッキリ言えば、「マレーとマリー、どちらも正しい」というのが答えです(汗)。
マレーのスペルは「murray」であり、これを英語表記通りの読み方をすれば「マレー」となります。
ではなぜ「マリー」と呼ぶ場合があるのか?これは、マレーがスコットランド出身者という事が大いに関係しています。アメリカ英語とイギリス英語、オーストラリア英語などはそれぞれ独特のクセがある事は知られていますが、スコットランドも独特の訛りがあるのです。
スコットランド訛りで「murray」を発音すると「マリー」となります。従って、マリーという表記は彼の故郷であるスコットランドでの呼び方を忠実に再現しているという事なのです。
従ってどちらでも間違いではありません。ここではマレーで統一させてもらいますけどね(苦笑)。
ウインブルドンとオリンピックで無類の強さを発揮するテニス一家のエリート・マレー
アンディ・マレーはスコットランドのナショナルチームのコーチを務めていた母の影響で幼少時よりテニスに打ち込みました。
身体能力抜群だったマレー少年はサッカーでも頭一つ抜けた存在であり、スコットランドでセルティックと並ぶ名門、グラスゴー・レンジャーズにスカウトされるほどであったと言われています。
1歳年上の兄、ジェイミー・マレーもプロテニス選手であり、ダブルスのスペシャリストとして男子ダブルスと混合ダブルスでグランドスラム優勝経験もあるバリバリのトップ選手です。いわば華麗なるテニス一家に育ったエリート選手と言った感じでしょうか。
ジュニア時代に全米オープンジュニアで優勝するなどの実績を残したマレーは、2005年にグランドスラムデビューを飾り本格的なプロテニスプレーヤーへ。2006年に18歳でツアー初優勝を飾ると、その後もツアー優勝を積み重ね、2008年には待望のマスターズ初優勝を果たし、2009年には自己最高の世界ランキング2位に躍進します。
迎えた2012年には地元イギリスで行われたロンドンオリンピックの男子シングルスで優勝し金メダルを獲得、そしてその直後に行われたグランドスラム全米オープンで悲願のグランドスラム初制覇を飾りました。グランドスラム決勝進出5度目にして初めて勝利しての戴冠でした。
2013年にはイギリス人選手として77年ぶりとなる地元開催のウインブルドン(全英オープン)優勝を果たし、二つ目のグランドスラムを獲得。
2014年はケガに苦しめられ不調に終わりますが、怪我から復活した2015年にはデビスカップ優勝やどうしても勝てなかったクレーコートでの初優勝などで完全復活。
2016年には苦戦が続いていたクレーコートの全仏オープンで初の決勝進出を果たし、その後のウインブルドンでは2度目の優勝、そしてリオデジャネイロオリンピックでは2大会連続の金メダルを獲得。男子シングルスでは五輪史上初となる2大会連続金メダリストとなりました。
今や名実ともにジョコビッチと並ぶ二強体制を築いている男子テニス界の帝王なのです。
アンディ・マレーのプレースタイル 全てが高次元の総合力こそ最大の武器
ジョコビッチの鉄壁の守備、ナダルの強烈なトップスピンとメンタル、フェデラーのテニス史上最強のフォアハンド・・4強と呼ばれたスター選手には「これ」という武器がありますが、マレーの「これ」って何?と言う人も多いかもしれません。
敢えて誤解を恐れずに言うのであれば、これという武器が無いのがマレーの強さともいえるかもしれません。ナンバーワン、オンリーワンの武器こそありませんが、全てにおいてナンバー2かナンバー3の力を持っているオールラウンドプレーヤー、それがマレーなのです。
ストロークは正確で深く、かつ強烈で、フォアハンド、バックハンドとも安定感抜群です。見た目の威力はさほどではありませんが、マレーの打球は非常に球質が重く、長いラリーになればなるほど威力を発揮します。なので相手はそう簡単にカウンターショットを繰り出せません。見ていて派手さはないですが、相手選手にとっては非常にやり辛い相手と言えます。
守備もジョコビッチに次ぐ固さで、相手のエース級をカウンターで仕留める技術を持ち合わせており、特にバックハンドは安定感、威力共に歴代トップクラスといえるでしょう。
サービスに関しては4強の中では1番の威力を誇ると言えるでしょう。近年はスピードを落として回転やコースを重視していますが、それでもノータッチを連発するほどの威力を有します。セカンドサービスも非常に多彩で読みづらく、高いポイント獲得率を誇っています。サービスゲームに絶対の自信を持つ上に高い守備力とカウンターパンチでブレイクを狙うという、まさに隙の無い試合を展開していきます。テニス脳の高さも評価されており、試合展開を読む力、展開力など非常にインテリジェンスなプレーヤーと呼ばれています。
唯一の弱点と言われていたのが精神力。特に大一番でのメンタルです。グランドスラム決勝で4連敗していた過去からわかるように、大一番での勝負弱さが大きく飛躍できない原因と言われていましたが、それも今では完全に克服し、弱点の無いパーフェクトな選手となってしまいました。
ただしこれだけの実績を残しているにも関わらず、4強の中ではただ一人一度も世界ランキング1位になった事がありません。しかしその唯一の課題を克服するのもそう遠い未来の話ではないでしょう。恐らくしばらくはジョコビッチとマレーでランキング1位を争う展開が続くはずです。
アンチドーピングやその他の不条理に関して発言し続けるアンディ・マレー
マレーはテニス界に厳しい提言をする選手としても良く知られており、その言動には常にメディアが注目しています。
2012年にはツアーファイナルに伴う過密日程に苦言を呈し、ツアーファイナルの開催地がヨーロッパから離れる事に警鐘を鳴らしました。
さらにウインブルドンなどのイギリスで開催されるテニス大会のチケットが高額である事も常々批判しており、テニスファンのためにも再考すべきだとの意見を崩していません。
さらにマレーと言えば有名なのが、テニス界でも度々取り沙汰されるドーピング問題に関する痛烈な批判です。アンチドーピング意識はテニス界一強いと言っても過言ではなく、過去にはその発言によってジョコビッチのコーチを務めている往年の名選手、ボリス・ベッカーとも険悪な関係となった事もあるほどです。
今年話題になったばかりのロシアの女子トップ選手、マリア・シャラポワの禁止薬物使用問題が発覚した時には、シャラポワだけではなく、シャラポワを広告塔として継続契約すると発表したスポンサーまで批判するほどのアンチドーピング意識の持ち主です。
こういった歯に衣着せぬマレーの発言は敵を多く作り、テニス界の中にも彼を快く思わない人物は非常に多いと言われています。しかし、全てはテニス界のためを思っての発言であり、テニスが広く親しまれるスポーツであり続ける事、そしてフェアなスポーツであり続ける事、選手が素晴らしい環境でプレーできることを選手の立場で代弁しているに過ぎません。
プレーだけではなく、意識も世界トップの選手であると言えるでしょうね。
二強時代を阻止するポイントは錦織圭ら下の世代の活躍次第
グランドスラム、マスターズ制覇を最大目標に掲げて世界を転戦する錦織圭にとってはノバク・ジョコビッチと並んで大きな壁として立ちはだかるアンディ・マレー。
オリンピック連覇、ウインブルドンで二度目の優勝、そして鬼門だった全仏で決勝進出を果たした2016年、マレーは完全にジョコビッチとともに他選手よりも一つ上のステージへと上り詰めました。
これからジョコビッチとマレーの二強時代がしばらく続くというのがテニス界の大方の見方となっています。
恐らくこの流れを止める力は既にフェデラーとナダルにはないでしょう。
となれば、彼らの下の世代、錦織圭やミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、ドミニク・ティエム(オーストリア)、ダビド・ゴフィン(ベルギー)、ニック・キリオス(オーストラリア)辺りの活躍が二強時代を崩すカギとなってくるでしょう。
中でも最も「人外」の仲間入りに近いと思われている錦織圭の奮起は重要です。
そのためにも、リオオリンピック準決勝など、最近大舞台で負け続けているマレーに、グランドスラムやマスターズでリベンジするという事が二強を崩す第一歩となる事でしょう。
これからもマレーと錦織の戦いから目が離せない日が続きそうです。
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