NHK大河ドラマ第57作目となる2018年放送の「西郷どん」。
稀代の英雄・西郷隆盛の生涯を描くこの作品において、その稀代の英雄・西郷どんの育ての親であり、西郷隆盛という傑物を見出して世に送り出したのが薩摩藩の名君・島津斉彬(しまづなりあきら)。激動の幕末にあって最高の名君とも称されるこのもう一方の英雄についてここではご説明しましょう。
第11代薩摩藩主・島津斉彬(しまづなりあきら)の生涯・略歴
薩摩藩第11代藩主・島津家第28代当主。
文化六年3月14日(1809年4月28日)、薩摩藩第10代藩主・島津斉興の嫡男として正室・弥姫(周子)との間に生まれた。
生母・弥姫の方針で乳母でなく生母によって育てられた斉彬は、曾祖父でもある薩摩藩8代藩主・島津重豪(しげひで)の影響もあって西洋文化(蘭学)に精通した人物として育っていき、これが後の藩主時代に薩摩藩を各藩に先んずる列強藩にする要因となる。
しかしこの斉彬の蘭学好きは、薩摩藩家臣団を斉彬派と反斉彬派とに二分する事となり、斉彬の父で十代藩主・斉興の後継問題に影を落とす事となる。開明派の斉彬を危惧する調所広郷ら守旧派の動きに加え、斉彬の異母兄弟である五男の島津久光への溺愛、さらには嫡男の斉彬との折り合いが悪かった島津斉興との親子関係もあり、斉興はなかなか嫡男の斉彬に家督を譲る事がなかった。
文政九年(1826年)、一橋徳川家当主・徳川斉敦の娘である恒姫(栄樹院)を妻として迎えた。恒姫との間に子を設けたが悉く早逝しており、それが後述するお由羅騒動などの一因となったともいわれている。
嘉永二年(1849年)に起こった、斉彬派の家臣たちによる久光や久光の実母(斉興の側室)であるお由羅の方の暗殺未遂事件である「お由羅騒動」で赤山靱負ら支持派の藩士を失った末、嘉永四年(1851年)に徳川幕府の老中・阿部正弘の裁定によって斉興は隠居し、ようやく斉彬は薩摩藩主の座に就いた。時に斉彬43歳(数え年)であった。
藩主になってからの斉彬は、理化学に基づいた工業力を重視して殖産興業に注力して薩摩藩を西洋列強に負けない雄藩にする事を目指し、日本国内有数の国力を持つに至った。さらに今和泉島津家の従兄妹、篤姫を養女として13代将軍の徳川家定に嫁がせるなど、幕府との繋がりを強くすることにも注力した。
さらには西郷隆盛や大久保利通といった、後の明治維新の立役者となる有能な家臣を身分の垣根を超えて登用する先見の明を持ち、人材登用においても名君であるといわれる聡明さを見せている。
他国の藩主や幕臣らにも一目置かれる程の有能さで名君と謳われた斉彬であったが、政敵ともいえる井伊直弼による安政の大獄によって次期将軍に推していた一橋慶喜が敗れて間もない安政四年(1858年)7月8日に急病で倒れ、倒れた8日後に急死した。享年50。
斉彬の急死によって12代薩摩藩主には、久光の子・忠義が就いたが、実権は前藩主の斉興が再び握る事となった。そしてこの藩主交代劇は斉彬が重用した西郷隆盛らにも大きな影を落とす事となる。
名君斉彬無くして西郷無し?下級武士から登用した有能な人材を見抜く眼力
ほとんどの西郷隆盛を主人公とした作品にあって、準主役ともいえる存在で登場するのがこの島津斉彬(しまづなりあきら)なのではないでしょうか。
それもそのはずです。西郷隆盛の生まれは武士ですが、薩摩藩の中では下から2番目の御小姓与という身分であり、下級武士に分類される生まれだったのです。本来であれば、藩を代表して他藩と交渉したり、藩主に直接仕える仕事など与えられる事など一生縁のない身分でした。それが身分社会というものだったのです。
そしてこの西郷隆盛という、本来ならば下級武士として鹿児島から世に出ることなく終わっていたであろう男の上書に目をつけて自らの側近として取り立てたのが島津斉彬だったのです。
一介の下級武士に過ぎなかった西郷が、開明派として当時の日本において最高の識者の一人であった斉彬から学んだことは数限りなかったことでしょう。当然その後の維新~新政府という大きな時代の流れに対処するためにもこの斉彬時代の経験等が役に立ったはずです。斉彬の手足となって全国を飛び回っていた西郷はその当時、藤田東湖や武田耕雲斎、橋本左内、梅田雲浜、長岡監物、中根雪江、津田山三郎といった全国に名の轟く志士たちと関りを持ちました。
何度も言いますが、本来であれば薩摩で埋もれていたであろう自身を取り立て、これ程の経験をさせてくれた島津斉彬という人物に対する西郷隆盛の恩義というのは言葉で言い表せるものではないでしょう。
島津斉彬が病死した時に西郷が殉死しようとしたというのは、いかにも西郷隆盛という男らしいと思えますね。それにしても、この西郷という男の本質を日本中の誰よりも早く見抜いたこの島津斉彬という人物、まさに只者ではないという他ありません。
西郷隆盛がいなければ日本の歴史は全く違ったものになっていたのは間違いありません。そしてその西郷という男を世に出した島津斉彬もまたこの人物なくして今の日本は無かったといってもいいでしょう。
西洋列強の良さを取り入れた集成館事業で富国強兵を果たした薩摩藩
幕末屈指の名君と呼ばれた島津斉彬の凄さは、西郷隆盛や大久保利通といった下級武士の積極登用に代表される人材登用だけではもちろんありません。
曾祖父・島津重豪にその才能を高く評価されていた斉彬は、蘭学に精通していた重豪の大きな影響を受けて育ちました。若き日には重豪とともにドイツの医者であり博物学者でもあるシーボルトにも面会している程です。
そんな、幼少時から蘭学に精通した島津斉彬という賢候の凄さは、斉彬が藩主となって実行した集成館事業にも現れています。
集成館事業というのは、斉彬が注力した洋式産業群の事を言います。鹿児島市磯地区辺りを中心として建設された西洋式工場です。
この集成館事業は紡績、造船、製鉄といった分野で特に大きな功績を挙げ、薩摩藩は軍事力と殖産興業分野において日本国内でも傑出した力を持つに至ったのです。そしてこの集成館事業の成功はそのまま幕末において徳川幕府を倒す薩摩の強大な国力・戦力となっていったのです。
西洋式の工業力を身につけて軍事力を増強して西洋列強に対抗しなければならないという事は多くの幕末の賢者が言っていた事ですが、それを最も早く実行して最も大きな成功を収めたのはこの島津斉彬なのです。
明治新政府の国作りをそれより10年以上も前に薩摩で既にやっていたこの島津斉彬、まさに時代を代表する傑物という他有りません。
“第六天魔王”織田信長、“天下人”徳川家康、“独眼竜”伊達政宗の戦国DNAを持つ男
人材を見抜く目を持ち、そして身分にとらわれず優秀な人材をどんどん登用していく部分は、維新三傑に数えられ、豊臣秀吉や明智光秀といった数多くの無名武将を軍団長にまで取り立てた織田信長を彷彿とさせますよね。西洋文化に大いに興味を抱き、いち早くその素晴らしさを取り入れて富国強兵を図った部分もそうです。
それもそのはず、斉彬の母方の家系には織田信長の血が入っており、この戦国時代の英雄の血が島津斉彬にも流れているのです。そしてその母方には奥州の独眼竜・伊達政宗の血脈も受け継がれています。
さらに驚くべきことには、後に倒幕の原動力として薩摩が倒した江戸幕府の初代将軍である徳川家康の血もこの斉彬には流れています。島津にとっては関ヶ原の戦いで煮え湯を飲まされた不倶戴天の敵である家康の血を受け継いだ島津家当主はこの斉彬だけなのです(江戸時代以前)。
賢候と呼ばれ、幕末の全国各地の名君の中でも一際異彩を放つ程の開明派藩主・島津斉彬。戦国三傑の信長と家康、さらに30年早く生まれていれば天下を取ったとさえ言われる伊達政宗という戦国最強の3人のDNAを受け継いでいるのですから、やはり血は争えないというべきでしょうか。
他キャストを食う“世界のワタナベ”渡辺謙と鈴木亮平の演技バトルに期待
「西郷どん」が2018年大河ドラマに決まったというNHKの公式発表を聞いた後、島津斉彬は誰が演じるのだろうか??というのがキャスティングにおける大きな興味の一つでした。
というのも、一部ネットの噂などでは西郷どんの島津斉彬役にあの「世界のワタナベ」、ハリウッドスターの渡辺謙が内定しているという話がまことしやかに流れていたからです。
そしてその一部ネットの噂通り、渡辺謙さんが島津斉彬役で大河ドラマに帰ってくることとなりました。謙さんの大河ドラマ出演は2001年の「北条時宗」での北条時頼役以来、17年振り5度目となります。うち「独眼竜政宗」と「炎立つ」では主役を演じられています。
今や本場アメリカ・ハリウッドで活躍する国際的スタ―俳優の渡辺謙さんですが、その人気の火付け役となったのがご存知「独眼竜政宗」なのは有名ですよね。当時まだ駆け出しの若手だった謙さんは主人公の伊達政宗役に抜擢され、政宗は大河ドラマ史上最高視聴率をマーク、その記録は未だに破られない不滅の金字塔となっています。
演技力や名声、俳優としての格など、全てにおいて斉彬を演じるにおいて何の不安もなさそうな謙さんですが、個人的には1点だけ。
それは渡辺謙の凄まじいオーラによって主人公他のキャストが食われてしまいやしないかという点です。「独眼竜政宗」や「炎立つ」は主役だからいいのですが、「北条時宗」での北条時頼役はとにかく凄まじかったです。個人的には「独眼竜政宗」よりこの北条時頼役の方が何倍も凄いと思います。謙さんの俳優キャリアの中でもベストのうちの1つだとわたしは断言します。それ程素晴らしく凄まじい演技でした。
しかしそれ故に主人公以下全てのキャストは霞んでしまったのです。時頼が死亡するまでの「北条時宗」の主人公は間違いなく謙さん演じる北条時頼でした。まあその時頼パートが一番面白かったのですが・・(苦笑)。
というわけで同じ現象がこの「西郷どん」でも起きやしないか・・それが心配です。でも鈴木亮平さんなら世界のワタナベにも対抗できるかも・・とも思えますね。それだけの俳優さんです。
ともかく、名優同士の息を呑むような名演バトルを期待せずにはいられないキャスティングですね。
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