敢えてナレーションで佐久間象山の名を出した三谷幸喜とNHKの真意は?
遂に最終回を迎えたNHK大河ドラマ「真田丸」。
今その最後を見届けて、半ば放心状態のうちにこの記事を書いています。
最後、真田幸村(信繁)は佐助(藤井隆)の介錯によって安居神社で最期を迎えるところまでが描かれていました。そして大坂城では千姫(永野芽郁)の助命嘆願を待つ、豊臣秀頼(中川大志)、茶々(竹内結子)、大野修理治長(おおのしゅりはるなが/演:今井朋彦)、大蔵卿局(峯村リエ)、そして幸村の嫡男・真田大助(浦上晟周)らが一同に会している場面。
そしてドラマの最後では、上田城への帰途、大阪城からの急使を聞き、全てを悟ったような兄・真田信之(大泉洋)のカットでドラマは終焉しました。
個人的には、六文銭を見たあの最後のお兄ちゃんの表情でこらえていた何かが決壊してしまいました。
この真田丸というドラマが真田信繁を主人公として描くと決まった時点で、このドラマの最期が悲劇になる事は避けられませんでした。
しかし最後に見終わって思ったのが、不思議とそのような悲壮感が無かったという事です。最期のナレーションで幕末の真田松代藩出身の武士・佐久間象山(さくましょうざん)の事に触れてあったからかもしれませんね。真田昌幸(草刈正雄)、幸村、信之らが命を懸けて守った「真田スピリット」は、幕末まで伝えられ、その結果日本という国を再び動かしたのだという、ある意味非常にポジティブなものでした。あの辺りは、脚本家・三谷幸喜という人物の真骨頂を見た思いがしましたね。
物語の登場人物たちの最後を明確に描かなかった手法は、恐らく賛否両論あるかもしれません。
しかし、三谷幸喜氏とNHKはあくまでこの「真田丸」を悲壮感溢れたものにしたくなかったのだという事は、この最終回でも一貫して貫かれていたと思います。
そして、わたしはドラマである以上はこの最終回で良かったのだと思っています。
秀頼、茶々、大野修理(おおのしゅり)、真田大助、毛利勝永、明石全登らの最後は?
最終回で描かれなかった各登場人物の最後を、ここでは補足して説明していきましょう。
まずは最後に炎上する大坂城に集まった豊臣家の人たち。
豊臣秀頼、茶々、大野修理、大蔵卿局、真田大助らは、炎上する大坂城の籾蔵(もみくら)で千姫からの助命嘆願を待っていましたが、結局千姫の助命嘆願は徳川家康(内野聖陽)、徳川秀忠(星野源)に聞き届けられることなく、大阪城の落城とともに全員が自害して果てたといわれています。
次に、毛利勝永(岡本健一)、明石全登(小林顕作)、長宗我部盛親(阿南健治)ら大阪城五人衆の最後について。
こちらについては、以下の記事をご参照ください。
大阪城五人衆の壮絶な最期➀大坂夏の陣で真田幸村、後藤又兵衛はどう戦い、どう散っていったのか?
大坂城五人衆の壮絶な最期➁牢人衆最強の毛利勝永、土佐の長宗我部盛親、切支丹武将・明石全登
以上の記事に、大阪城五人衆の経歴や大阪の陣における戦い、そしてその最後などについて詳しく記述しています。
大野修理の弟・大野治房(武田幸三)は、大坂の陣後行方不明になったとも、徳川に捕らえられて処刑されたともいわれていますが、詳細は分かっていません。
きり、佐助、真田信之や稲、こう、そして徳川家の人々の大坂の陣のその後
きり(長澤まさみ)と佐助についても、最後は描かれませんでしたが、この二人については史実でも詳しい事はわかっていません。
きりに関しては、実在の人物なのですが、生年や没年なども全くの不明であり、佐助に関しては実在の人物ではありません。
徳川家康は豊臣家の滅亡の約1年後に病死します。本多佐渡守正信(近藤正臣)も家康の死から約2か月後に家康の後を追うように病気で世を去りました。
千姫は大坂夏の陣後、後の新田藩主・本多忠刻と再婚し、子を授かるなど静かな余生を過ごし、大坂の陣から41年後、70歳でこの世を去りました。
二代将軍・徳川秀忠は家康死後、江戸幕府の基礎を着実に固め、徳川政権の支配を盤石に固めて三代将軍・徳川家光へとつなぎます。秀忠は、大坂の陣から17年後に病没しました。
そして昌幸・信繁らから真田を託された真田信之は、弟・真田左衛門佐信繁の死後、真田家を松代十万石大名へと成長させ、信繁の死から43年後、当時としては異例ともいえる長寿・93歳でこの世を去りました。三代将軍・家光、四代将軍・徳川家綱からも信頼されるほど江戸幕府での人望は大きかったとされており、その名声故になかなか隠居が許してもらえなかったという逸話が残されるほどの大人物でした。
真田信吉(広田亮平)、真田信政(大山真志)については、父である信幸よりも早くこの世を去りました。信吉は沼田城主として善政を敷いたと伝えられており、信政に関しては死去の2年前に父信之から家督を譲られ、松代藩第二代藩主となりました。
信之の正室・稲姫(小松殿/演:吉田羊)は大阪の陣の約5年後、信之の死の38年前に病気でこの世を去りました。こう(長野里美)に関しては、詳しい生没年などはわかっていません。
裏切者の大角与左衛門(樋浦勉)については、大阪の陣後に大坂城を脱出、徳川家康に徳川家への仕官を願い出たといわれていますが、家康はこれを許さず、失意のうちに病没したと伝えられています。
最終回のMVP この名作を作ったすべての人に感謝・・
大河ドラマ「真田丸」最終回のMVPへと参りましょう。
結論は最後に置いておくとして、とにかく皆さんが素晴らしかったですね。
真田幸村は、これまでの真田ものではややもするとスーパーヒーローすぎた英雄像を覆すような新幸村像を確立しました。新時代のヒーローともいえるような素晴らしい演技でしたね。最後、介錯をする佐助の身を案ずる様と、家康に突撃する様。これこそが史実通り、普段は大人しそうでオーラがあまりないにも関わらず、戦では「真田日本一の兵(つわもの)」と呼ばれるほどの鬼神の働きを果たしたという実際の「真田幸村」という武将の本質を見事に表していましたね。この真田丸での真田幸村は、この堺雅人しか演じられなかったと確信していますね。
きりと茶々も素晴らしかった。この二人を演じた、長澤まさみと竹内結子にとっては間違いなく女優人生を代表する作品となりましたね。二人のキャラの新境地を切り開いた三谷幸喜の当て書きの真骨頂とも言えるでしょう。もちろんそれに見事に応えた二人も素晴らしかったですね。
徳川家康と本多正信に関してはもう何も言うことはないでしょう。真田家に立ちはだかる大きな大きな壁。しかし決して絶対悪ではありません。このバランスは凄く難しかったはずです。このバランスがどちらかに振れすぎてしまうと、この真田丸は全く違ったものになってしまっていたでしょう。その意味でも内野聖陽さんと近藤正臣さんはさすがという他ありません。
そしてこの真田丸というドラマのもうひとりの主人公といってもいい、真田信之。
時には勇猛に、時には己の運命に苦悩する信之という男をシリアスに時にはコミカルに1年間演じ切りました。信繁と信之、そして父の昌幸。紛れもなくこのドラマの主人公はこの三人でした。大泉洋という俳優の底力をこれでもかと見せてくれましたね。おそらく、何年後になるかはわかりませんが、大泉洋さんは大河ドラマ主人公を演じられるでしょう。この真田丸を見てわたしはそれを確信しましたね。
上杉景勝(遠藤憲一)と直江兼続(村上新伍)さんの上杉家主従も良かったですね。真田信繁の若き日からのよき理解者であり父でもある存在。
偉大なる上杉謙信の跡を継いだ景勝の苦悩、その苦悩を理解しながら景勝のために冷徹に徹するクールな兼続。これも見事なキャスティングでしたね。
伊達政宗(長谷川朝晴)はハッキリ言って一番のサプライズだったかも知れません。個人的にはあまり出番はないのだろうとタカをくくっていました。その通り、出番は少なかったのですが、しっかりとキャラが立っていましたね。これもまた新たな伊達政宗像を確立しました。
幸村に人生をささげた真田家の忠臣・高梨内記(たかなしないき/演:中原丈雄)の最期にはしびれましたね。中原さんの鬼気迫る演技には引き込まれっぱなしでした。昌幸と信繁のために生きた老臣・高梨内記。その最後の炎の煌めきには本当に感動しました。
さらに堀田作兵衛(藤本隆宏)、矢沢三十郎(迫田孝也)も良かった・・佐助も大野修理も秀頼も毛利勝永も明石全登も・・
とにかくみなが素晴らしかった。俳優も脚本も演出も音楽も・・
結論をいいます。MVPはこのドラマに携わったすべての人々です。その結果の集大成がこの最終回だと思います。今はただこの名作を残してくれたすべての人に感謝したいですね。そしてしばらくはこの余韻に浸ろうじゃないですか。寂しいけどね・・
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