徳川と北条が和睦したという話を聞きつけた真田安房守昌幸(草刈正雄)の弟・真田信尹(栗原英雄)は、浜松城に徳川家の重臣・本多正信(近藤正臣)を訪ねていた。
信尹は正信に真田が味方した意図を告げたうえでくぎを刺していった。真田を北条から守れという念押しである。
正信は信尹の知恵者ぶりを褒めながら、主君・徳川家康(内野聖陽)に対して、真田は切れ者揃いゆえに上杉に寝返らぬよう気を付けるよう注進するのであった。
正信の意を受けて家康は真田昌幸を居城に招く旨を真田家に伝える。
昌幸は自分の名代として、嫡男の真田信幸(大泉洋)と次男の真田信繁(堺雅人)を家康の元へと派遣する事とする。
浜松城にて家康と対面した信幸・信繁。その席で信幸が口を開く。
北信濃の虚空蔵山城(こくぞうさんじょう)を拠点として信濃の支配を狙う上杉景勝の脅威を家康に唱える信幸。上杉の防波堤として真田領である海士淵(あまがふち)に城を築くことを家康に要請する。後の上田城である。そしてその城に真田が入って上杉を防ぐという信幸の提案に対して、徳川家の猛将・本多平八郎(藤岡弘、)は鬼気迫る表情で立ち上がる。
信幸はそれでも平然と家康に対して海士淵に城を作る事の重要性を説く。家康はあっさりとこの提案を飲むが、代わりに一つの条件を出す。
「沼田をもらい受けたい」
信幸の表情が一変する。
「お断り申し上げる!沼田を北条に渡すなど理不尽至極!!」
信幸が言い放つと、再び本多平八郎忠勝が怒りに任せて信幸に詰め寄り、一気に場に緊張が走る。咄嗟に身を挺して平八郎と信幸の間に割って入る信繁。
ここで信尹が持ち帰って兄・昌幸と相談して対処すると伝え、場を収めるのであった。
居室に戻った三人。海部淵に城を築く事の意味を考える信繁に対して、叔父の信尹はこう答える。
「本当の狙いは恐らく徳川・・」
信繁も同じ思いであった。徳川と真田が戦うための城を敵である徳川に作らせるという、実に昌幸らしい大胆な策だ。
家康は側室・阿茶局(斉藤由貴)の提案で真田を懐柔するための良い策を思いつく。夜に酒宴を開いた家康は、木曾の人質であった昌幸・信尹の母、おとり(草笛光子)を真田家に返すよう信幸らに告げる。祖母であるおとりと久々に対面して喜ぶ兄弟に対して家康はこう告げる。
「沼田の件、ひとつよしなに・・」
家康の懐柔策に対してひとまず引こうと考えた昌幸であったが、沼田城の城主である昌幸の叔父・矢沢頼綱(綾田俊樹)は断固として沼田の明け渡しを拒否し、徹底抗戦を主張する。
叔父・頼綱の説得に手間取っているうちに北条が動く。北条は沼田城の明け渡しを迫る使者を頼綱に送るが、頼綱はその北条の使者を斬り殺してしまう。憤慨する北条家当主・氏直(細田善彦)に対して、実質上の北条家のトップである北条氏政(高嶋政伸)はほくそ笑む。
「これで沼田攻めの口実が出来た」
沼田城に大軍を送った北条家の猛攻が始まる。しかし歴戦の勇者である頼綱は老齢とは思えない戦いぶりで北条の大軍に一歩も引けを取らない。
新たな城を築城中の上田平に信繁と矢沢三十郎頼幸(迫田孝也)が父・昌幸を訪ねてきた。
父・頼綱の元でともに戦いたいと願い出る三十郎の願いを快く引き受けた昌幸。と同時に信繁にもひとつの指示を与える。
上杉景勝(遠藤憲一)の元へ向かえと言うのだ。沼田城を北条から救うためには上杉の力が必要だと言う昌幸。だが一度裏切った上杉が簡単に真田を許すとも思えない。昌幸は信繁に告げる。
「知恵を働かせよ、源次郎。お前に任せた!」
父の全幅の信頼を受け、信繁は嬉しそうにそのやりがいを梅(黒木華)に話す。そこで梅から嬉しい話を打ち明けられる。梅のお腹には信繁との子が宿ったと言うのだ。梅と生まれくる子のためにも上杉との話をまとめなければと誓う信繁であった。
上杉景勝の居城・春日山城に単身乗り込んだ真田信繁。
景勝の間に通された信繁に対して、己の本当の身分を明かす信繁。重臣・直江兼続(村上新悟)が真田の裏切りに対して詰問する。裏切った真田に対する怒りは相当のものだ。あっという間に無数の槍を突きつけられる信繁。
そんな状況でも眉ひとつ動かさぬ信繁の度胸に景勝は興味を抱き、話を聞く。
信繁は、景勝に芝居をしてほしいと言う。上杉と真田が上杉の虚空蔵山城で戦ったと見せかける芝居だ。
真田が上杉の虚空蔵山城を攻め、それを上杉が撃退する。そしてその勢いに乗って上杉が北条を攻めるという噂を流す。上杉の攻撃に備えるべく、北条は沼田城から撤退せざるを得ない、という策だ。
景勝は黙って話を聞いた後、話した。
「おもしろい。殺されるかもしれぬのにわしの元へやってきた。お主の勇気に免じてこの話、乗る事にしよう」
信繁が去った後、景勝は兼続に対して呟く。
「あの男に誠(まこと)があるか否か試してみようではないか・・此度も裏切られたとしたら、わしの器がそれまでだったという事じゃ」
景勝は信繁という男に得も知れぬ興味を抱いていた。
間もなく信幸・信繁は虚空蔵山城に兵を率いて出陣。守るは直江兼続。
お互い法螺貝を吹いて鬨の声をあげて睨みあう。一人兼続の前に進み出た信繁は櫓の上から見下ろす兼続に一礼し、兼続もそれに頷く。その後真田軍は戦うことなく兵を引き上げた。
真田が上杉を攻めて敗れたという知らせは各地に伝わった。北条軍では真田の忍びである佐助(藤井隆)が偽情報を流し、上杉が攻めてくるという噂を流して回っている。
北条氏政は沼田城から兵を引く事を決断し、沼田城は危機を脱した。
浜松城では家康が西の羽柴秀吉への対抗策を考えていた。西に意識が集中している家康に対して、本多正信が言う。
「西に集中するためにも東の憂いは取り除いておいた方がいいのでは?」
正信は地図におかれていた真田の木札を手に取り裏返しに投げる。
「真田安房守、そろそろ死んで頂きましょう・・」
真田の郷では無事大役を終えた信繁が梅の元を訪れていた。
そして信繁は梅に告げる。
「そなたはなくてはならぬ人。わたしの妻になってはくれぬか?」
梅は喜んで信繁の言葉に応えるのであった。
その頃、家康の居城である浜松城に一人の男の姿があった。
昌幸と同じ信濃の国衆・室賀正武(西村雅彦)その人であった。
家康の魔の手は着々と真田家に伸びていた・・・
「妙手」の視聴感想
面白かった。いやあ面白かった。
ここまでで一番面白かった回かもしれない。それほど面白かった。
すみません、取り乱しました(笑)。
今回の第10話「妙手」素晴らしかったです。名場面の洪水の嵐といってもいいでしょう。
一番の名場面はやはり上杉景勝と信繁の対面シーン。
物怖じせず景勝に対する信繁の大胆不敵さ、そしてその信繁に興味を抱き、その覚悟を受け止める景勝の度量の大きさ。命を賭けた男と男の真剣勝負。これこそ戦国の醍醐味ですよ。エンケンさんの景勝はやはり素晴らしい。素直に感動しました。
次に信繁と兼続の虚空蔵山城での戦芝居。
歩み寄る信繁に対して頷く兼続。そして兼続の心意気に一礼して去る信繁。それを見ながら顔色一つ変えずに「猿芝居じゃ・・」とつぶやく兼続。そしてあの真田丸主題歌のカットイン!!
鳥肌ものでした。あそこで主題歌流しますかね。演出グッジョブ!!って思わず叫んじまいましたわ(笑)。村上新悟の兼続もやっぱりいい。この兼続こそ自分の思い描く兼続なんですよ。この俳優さんは人気出るでしょうね。なんつったって声がいい。もっと出してほしいですね。三谷さんお願いしやす(笑)。
ハイ次。高梨内記(中原丈雄)と昌幸の囲碁のシーン。負けそうになった昌幸が碁盤をぐちゃぐちゃにしてしまうとこは声出して笑ってしまいました。目立ちませんが、内記役の中原さんもいいですよね。表情なんか本当に素晴らしい。さすがベテランの実力派です。昌幸の一番の理解者はこの高梨内記なんですよね。冷静沈着そうに見えて、昌幸が思い切った決断をした時にはこの高梨内記が実は一番うれしそうなんですよ。そういう所をしっかりと演技で示していらっしゃいますね。
あー、まだまだあるんだけど、とにかくもっかい言います。自分的には今回がこれまでで最高傑作回でした。
第10話の最優秀キャラ(MVP)
あー、難しい。いい意味で難しい(笑)。
二人にさせてもらえません?え、いいっすか?あざーす。
てわけで今回のMVPは真田信繁&上杉景勝で!
理由はただ一点。春日山城での二人の男と男の対決のカッコよさ。
今回の対面は少し心配でもあったのです。というのも、30年前の真田家のドラマ「真田太平記」での景勝と真田の対面を描いたシーンが素晴らしすぎたためにわたしのハードルが上がり過ぎていたためです。
心配は杞憂に終わりましたね。新たな名場面を作ってくれた三谷幸喜とエンケンさん、堺雅人さんに感謝します。景勝の男気に惚れ込みました。本当に感動しました。
直江兼続も捨てがたかった。冷静沈着でありながら熱い部分を併せ持つ兼続の新たな一面が見られましたね。「猿芝居じゃ」とつぶやく場面もツンデレな兼続を現していてよかったです(笑)。兼続の象徴でもある、「愛の兜」姿もみられましたしね。
大好きな矢沢頼綱の北条相手の大立ち回りも見れましたし、個人的には満足度100%の回でした。
北条氏康と徳川家康の腹黒さ、同じ本多でも対照的な正信の狡猾さと平八郎忠勝の一本気さも見れましたしね。ちらっとナレーションで言っていましたが、平八郎の娘、稲姫の登場が待ち遠しくなってしまいましたね。
もっかい言わせて。
あー、面白かった。
追記 梅に関する事(ちょいネタバレ含むので注意w)
もうひとつ気になったことがひとつ。
次週予告を見ていたわたしの妻がこう聞いてきました。
「えっ?来週梅が死んじゃうの?」
確かに梅の死を予感させるような気になる感じの次週予告でしたね。
ちょいネタバレになっちゃうかもしれませんが、梅に関してはこの後徳川と戦う第1次上田合戦で悲劇に見舞われると言う前情報があるので、恐らく次週死んでしまうという事は無いと思われます。上田合戦はもう少し先の話ですから。あ、恐らくですよ、恐らく(苦笑)
コメント
フルスペッククラブさん:
先週ご返事を戴きました北カリフォルニアの天音です。
便宜上この様に呼ばせていただきます。お分かりだとは思いますが、この天音とはサイバー上のペンネームです。一対一の通信の折に本名を明かします。私は、シリコンバレーで仕事をしている業界の関係上、特にIDセフトのターゲットとして狙われる可能性が高いことから慎重にしております。
さて、真田一族への熱い思いを共有する者同士に取りましては、
10話においても実に愉快なコメントを拝見させて頂きました。
息子を人質にすることと引き換えに、背後は突かないで欲しいと上杉景勝に昌幸(丹波哲郎)が懇願し、それを了承する景勝の度量に、恩義を深く感じる下りは、筋運びにリアリティのある真田太平記の方が史実ではないかと思われます。 しかし、エンケンさんの上杉景勝は実にいい味を醸しだしていました。 上杉をあれほどコケにして置きながら、開口一番で猿芝居に協力して欲しいという筋は、奇策家としての信繁のデビュー・シーンとしては、よく考え出された場面だったとは思いますが、筋運びとしてはいささか際どいものがありました。
しかし、この場面は、どことなく哀愁を帯びた目のエンケンが演じる景勝に、彼の役者力(渋味のある魅力)が実によく活かされておりました。エンケンの役者力が絵にした名場面であったと
私もそう感じます。
フルスペックさんのサイトを、真田丸視聴後に閲覧することで、
このドラマを、一粒で二度美味しく味わえることに感謝させて戴きます。
フルスペックさんの目のつけ所が、私の脳内に快楽ホルモンを分泌させてくれるのであります。
お体ご自愛ください。
天音 拝
天音さん、こんにちは(こんばんはかな?)
真田太平記の伊藤孝雄演じる上杉景勝と丹波哲郎、草刈正雄演じる真田親子の春日山城での対面シーンについては三谷幸喜も悩んだでしょうね。あれは反則級のカッコよさです。実を言うと、あれを見て上杉景勝大好き人間になりましたし(笑)。あのシーンは超えられないと言うのは三谷幸喜自身が一番理解していたのではないでしょうか。そこで全く違うテイストで描いてきた、という風に思えてなりません。
しかし、確かに史実においては、「徳川と戦う間真田領の事を一時忘れていただきたい」と頭を下げた真田太平記の方が確実に近いと思いますね。虚空蔵山城の戦芝居というのは間違いなく三谷幸喜の創作ですもんね。天音さんのおっしゃる通り、信繁の奇抜さと大胆さを描くエピソードとして意表を突かれましたね。
エンケンの上杉景勝は、伊藤孝雄の豪気で快活な景勝とは違う、哀愁のようなものを感じますね。偉大過ぎる父を持った悲哀のようなものを・・。そんな憂いを含んだ景勝もまたよし!って感じでわたしも見ていました。
これからもお気づきの点等あればご遠慮なく書き込んでやってください。