音楽をカテゴライズするなんてナンセンス…というのは古今東西アーティストからもファンからも言われ続けているセリフなのですが、時代を振り返ってみると、その時々の音楽はカテゴライズされて様々なジャンルの音楽が時代時代で生まれてきたという歴史があります。
そんな中には、アーティストにとってはありがたくない、カテゴライズされたくない不名誉なジャンルというのも存在します。そんな、ミュージシャンにとって有り難くないジャンルの最たるものこそ、1970年代後半から1980年代前半にかけてアメリカを中心にチャートを賑わせた「産業ロック」でしょう。
ここではそんな産業ロックと呼ばれたバンドたちの名曲の数々をご紹介してみたいと思います。
ロキノン渋谷陽一が名付けた“産業ロック”はミュージシャンには嬉しくないジャンル??
産業ロックという、ミュージシャンからすれば決して有り難くない称号を与えられてしまったアーティストたちの名曲をご紹介する前に、まずは簡単に産業ロックとは何かをご説明しておきましょう。
「産業ロック」という言葉を日本で初めて使ったのは、渋谷である(1979年ごろ、NHK-FMのラジオ番組『ヤングジョッキー』において)。
(中略)
産業ロックの特徴について、長髪にジーンズ・Tシャツといったファッション、情緒的で類型的なメロディ、大げさなアレンジで厚い音、保守的でアヴァンギャルドでない音楽性(新しい方法論を示している意味で、ポール・マッカートニーやスティーヴィー・ワンダーは充分にアヴァンギャルドであると定義)、過剰管理されたマネージメント・システム(マネージャーがメンバーを選定したり、バンドの基本方針を決定する等)を挙げている。
引用:Wikipedia
文中の渋谷とは、音楽評論家で株式会社ロッキング・オンの代表取締役社長を務める渋谷陽一氏です。彼がこの「産業ロック」という名の名付け親であり、そこからこの言葉は広まっていき、日本の音楽ファンの間ではネガティブな意味でつかわれる言葉となりました。
しかし、わたしは先輩や友人の兄の影響によってこの「産業ロック」と呼ばれるバンドたちの音楽を聴いて洋楽に目覚めていきました。デュラン・デュランなどのニューロマンティックスやホールアンドオーツ、ビリー・ジョエルといったACやポップスを聞いていたわたしがハード・ロックやヘヴィ・メタル、プログレッシヴ・ロックにハマったのは間違いなく産業ロックのおかげでした。産業ロックを経由していたからこそハード・ロックやヘヴィ・メタル、プログレにアレルギーを起こすことなく入っていけたのです。産業ロックと呼ばれるバンドにはプログレやハード・ロックにルーツを持つバンドが多くいたためですね。
そんなわたしから言わせてもらうならば、産業ロックと呼ばれるバンドの曲やアルバムは素晴らしいものが数多くあります。一人でも多くの音楽ファンに彼らの音楽の素晴らしさをわかって頂きたく、バンドとおすすめ曲を紹介していきましょう。
ジャーニー JOURNEY
アメリカン・プログレ・ハードとも呼ばれていたアメリカのバンド「ジャーニー」です。産業ロックと呼ばれたバンドの中では最も商業的成功を収めたバンドといってもいいかもしれません。
上のPVは600万枚以上を売り上げた彼らの8thアルバム「フロンティアーズ」に収録されている「セパレイト・ウェイズ」。TBSの侍ジャパン(野球)テーマソングとして使用されている曲です。キーボードによる哀愁のイントロはあまりに有名ですよね。強靭なギターリフと抒情的なギターソロ、熱いハイトーンヴォーカルにドラマチックな曲展開…すべてが完璧です。この曲をテーマソングに抜擢したTBS野球中継担当者はさすがです。
もう1曲、彼らの中で好きな曲をご紹介しておきます。
900万枚以上を売り上げてジャーニー最大のヒットアルバムとなった7thアルバム「エスケイプ」収録の同名タイトル曲です。メロディアスとハードが一体となった、これまたプログレ・ハードと呼んでいい名曲です。
フォリナー FOREIGNER
元スプーキー・トゥースのミック・ジョーンズや元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルド、元ブラック・シープのルー・グラムなど、イギリスとアメリカの有名ミュージシャンで結成されたスーパーバンド「フォリナー」です。全アルバムの総売上が8000万枚以上を記録する、こちらもジャーニー同様に大成功を収めたバンドです。
この曲はビルボード全米シングル2位になった「ダブル・ヴィジョン」(1978年)。メロウなサビが印象的な、シンプルなカッコよさを誇る彼らの初期の代表曲です。
フォリナーが産業ロックと呼ばれるようになったのは実はこの後、「ガール・ライク・ユー」(1981年)、「アイ・ウォナ・ノウ」(1985年)とアルバム2作続けてバラードヒットが出た辺りからでしょう。
しかし、アルバムにはメチャクチャカッコいいロックナンバーが入っていたんです。つーわけで、ミックのハードなギタープレイとルーの魂のヴォーカルが炸裂する最高にアツいフォリナーのハード・ロックチューン「トゥース・アンド・ネイル」(1985年)をどうぞ。
エイジア ASIA
いやぁ本当によく聞きましたね、エイジア。上で紹介したフォリナーをスーパーバンドと紹介しましたが、このエイジアはそれ以上のスーパー“レジェンド”バンドといってもいい存在です。
元キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、元イエスのスティーヴ・ハウ、元バグルスのジェフ・ダウンズ、元エマーソン・レイク&パーマーのカール・パーマーという、プログレッシヴ・ロック界の重鎮が集まって結成されたのがこのエイジアだったのです。
当然ファンはどんなプログレバンドになるんだろう…と期待を抱いていたのですが、フタを開けてびっくりの3~4分のポップロックを中心としたバンドだったのです。
でもそのポップなロックの極上なこと。デビューアルバムの完成度の高さはまさに歴史に残る名盤の名にふさわしいものでした。プログレの実力者がポップなロックを作ったらこんなスゲーのができるんだという底力をまざまざと見せつけてくれたのです。んでも、プログレ界の猛者たちらしく実はしっかり難しくて複雑な事もさりげなくやっているというカッコよさ。
PVは衝撃の1stアルバムトップを飾る「ヒート・オブ・ザ・モーメント」。下に紹介するのが同アルバムの2曲目「時へのロマン」です。うーん、やっぱいい(笑)。産業ロックも捨てたもんじゃないと思いません??
REOスピードワゴン REO SPEEDWAGON
1967年に結成されたアメリカのバンド「REO スピードワゴン」です。長い長い下積みと地道な活動を経て1980年代に入って大ブレイクした苦労人ですね。
このPV動画は、彼らを一躍人気バンドへと導いた全米シングルチャート1位曲「キープ・オン・ラヴィング・ユー」です。彼ら初のヒット曲が全米1位という大ヒットとなったのでした。
しかしこの曲のヒットによって彼らはバラードバンドのイメージが付きまとう事となり、以降のヒット曲もほとんどがバラードソングとなってしまうのでした。そしてますますバラードバンドのイメージは強くなり…という悪循環に陥っていくという運命を辿っていくこととなったのです。
ちなみに人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の人気キャラクター“スピードワゴン”はこのバンドから命名されています。そしてそのジョジョのスピードワゴンから命名されたのが、井戸田潤と小沢一敬からなるお笑いコンビ「スピードワゴン」です。なかなか面白い巡り合わせですよね。
ちなみに彼らの曲「涙のレター(In Your Letter)」は倉本聰氏のあの大人気ドラマ「北の国から」の挿入歌にもなった曲ですね。本国アメリカよりも日本で特に人気のナンバーです。
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