1963年(昭和38年)に記念すべき第一作目の「花の生涯」でスタートし、既に50年以上にわたる歴史を誇るNHK大河ドラマ。
「日曜夜8時といえば家族で大河ドラマ」という視聴習慣を生み出した、まさにモンスタードラマ枠といってもいいでしょう。
そんな大河ドラマの半世紀以上に渡る歴史の中で、歴代最高視聴率を誇っているのが、1987年(昭和62年)放送の渡辺謙主演「独眼竜政宗」というのは有名な話ですが、歴代視聴率第2位を誇るのが、ここでご紹介する中井貴一主演の「武田信玄」なのです。
「視聴率は面白さと比例した」正真正銘の名作大河ドラマ
ここで簡単にNHK大河ドラマ「武田信玄」について説明しておきましょう。
ジャンル :歴史ドラマ
放送期間 :1988年1月10日~12月18日
放送時間 :毎週日曜日20:00~20:45
ドラマ枠 :大河ドラマ
放送回数 :全50話
制 作 局:日本放送協会(NHK)
音 楽:山本直純
原 作:新田次郎
脚 本:田向正健
主 演:中井貴一
平均視聴率:39.2%
最高視聴率:49.2%
平均視聴率が39.2%で最高視聴率は第6話「諏訪攻め」の49.2%・・(笑)。今では考えられない視聴率ですよね。いかにこの時代の大河ドラマが凄かったかというのが、この数字だけで分かるというものです。
まあ今のようにネットが普及している時代ではありませんし、BS、CSの多チャンネル時代でもありませんでしたから現在の視聴習慣と一緒には出来ませんが、それでもとんでもない数字です。
前年の渡辺謙主演「独眼竜政宗」が平均視聴率39.7%、最高視聴率が47.8%を記録した勢いそのままに始まったというのは確かに大きかったかもしれません。しかも、独眼竜政宗の最高視聴率47.8%は最終回「大往生」で記録したものですからね。スタートダッシュできる条件は揃っていたといえます。
とはいえ、それだけでは到底こんな化け物級の数字をマークできるわけもありません。面白かったからこそこれだけ多くの視聴者を引き寄せたのです。
このサイトでは常々、「面白いもの=視聴率が良いもの」ではないと言っていますが、断言します。この大河ドラマ「武田信玄」は面白くて視聴率も化け物だったドラマだったのです。
山本直純の風林火山を彷彿とさせる起承転結のドラマ性あふれるオープニング
まずはオープニング。
作曲は山本直純。一言で言って神OPです。映像は武田信玄の旗印にもなっている「風林火山」の順で流れます。鳥肌ものです。大河オープニングに関してはこちらの記事を参照ください。
珠玉の名作が揃うNHK大河ドラマオープニング曲 独断と偏見で選んだ大河OPベスト10 異論は認めますw
そして原作は新田次郎の傑作小説「武田信玄」で、脚本はこれまた大物・田向正健(たむかいせいけん)。
新田次郎氏は「国家の品格」で有名な数学者・藤原正彦氏の父であり、生前にはご自身の作品が大河ドラマで取り上げられることを熱望していらっしゃったことでも有名です。
田向氏はこの「武田信玄」の他、1992年の「信長」や1998年の「徳川慶喜」でも脚本を担当されましたね。
この素晴らしい原作と名脚本があってこそのこの名作誕生となった事は言うまでもないでしょう。その作風はまさに「硬派」。「甲斐の虎」と呼ばれた武田信玄とその家臣たちの魅力を存分に伝える事に成功しています。
杉良太郎、中村勘九郎に一歩も引けをとらなかった中井貴一の凄さ
この「武田信玄」において主演を務めたのが、当時弱冠27歳であった中井貴一さん。大河ドラマは初出演にして初主演という事になりました。
武田信玄といえば、その肖像画のイメージなどから、恰幅の良い重厚な人物という印象が強かったので、細面でしょうゆ顔(当時で言う日本人的な和風顔)、そして爽やかな好青年という印象の強かった中井貴一さんが信玄役と決まった時はイメージがかけ離れているという意見も多かったといいます。元NHKディレクターの和田勉氏も「笑っていいとも」などで触れていた記憶がありますね。
確かにわたしもそれまでの中井貴一さんのイメージといえば、あまりにも「ふぞろいの林檎たち」の仲手川良雄役のイメージが強かったので、「え?信玄?」と思ったのも事実でした。
しかししかし、これが見事に裏切られてしまいます。全くもって中井貴一という俳優の底力を甘く見過ぎていましたね(笑)。
若き日の父・武田信虎との確執時代の晴信、そして父を追放して今川義元、北条氏康、上杉謙信らと互角に渡り合う甲斐の虎としての晴信、「甲斐に光を・・」と言い残して世を去る晩年の信玄・・
後の名優・中井貴一の凄さがこの「武田信玄」には詰まっているといっても過言ではありません。
特に私が一番すごいと思ったのが、第19話「三国同盟」での今川義元(中村勘九郎)、北条氏康(杉良太郎)との善徳寺での会見。
対するは中村勘九郎(後の18代目中村勘三郎)と杉良太郎という大御所俳優。しかしこの二人に全くひけをとらない演技を若き中井貴一は見せてくれます。この三人の演技はまさに圧巻。
特に富士山を仰ぎ見ながらの三者のやり取りは今でも一言一句漏らさず再現できるほど脳裏に焼き付いていますね(笑)。このシーンは義元、氏康、信玄の三者の人物像をよく現しているとともに、三者の演技の火花散るようなぶつかり合いはまさに圧巻の一言です。
そして最後、今わの際に差し込む光を見ながら「甲斐に光を・・」と言い残してこの世を去る場面・・。
もうこれ以上の説明は不要でしょう。このドラマでの中井貴一の武田信玄は、紛れもなく「甲斐の虎」でしたね。
今は亡き平幹二郎の粗暴な武田信虎、正義感溢れる堤真一の武田義信
そんな信玄を取り巻く武田一族も個性派揃いです。
まず何といっても別格だったのが、父・武田信虎。演じるは先日亡くなられた平幹二郎さん。晴信が最初に乗り越えねばならない高く大きな壁として、暴君信虎を演じてくれましたね。紛れもなく序盤のMVPでした。さらに最後、病魔に襲われる信玄の元を訪れて「天下を取るのじゃ!!」と叱咤する年老いた信虎も胸が熱くなりましたね。個人的には信虎役は永遠にこの平幹二郎さんのものです(笑)。
そして仲違いして自刃してしまう長男・武田義信も良かったですね。演じたのは当時まだ24歳だった堤真一さんでした。父の深謀遠慮を理解できない、正義感が強すぎる故の親子の相克を見事に演じていました。そういえば、この義信の幼少期は中村七之助さんだったんですよね。いうまでもなく、今川義元を演じた中村勘三郎さんの次男です。
信玄の後を継ぐ武田勝頼には当時若手俳優として大人気だった真木蔵人さんがキャスティング。最終回の一人座にある場面は後の武田家を象徴するシーンでした。
信玄の弟であり、「武田の副将」として川中島の戦いで壮絶に散った典厩(てんきゅう)・武田信繁(若松武)と、信玄の影武者も務めた武田信廉(篠塚勝)も外せません。信玄を補佐する影の存在としてしっかり光っていましたね。
さすがは甲斐武田氏というほどのメンツが揃っていますね。どの役者さんも硬派で重厚な素晴らしい武田家でした。
若尾文子のナレーションは流行語大賞にも 美人過ぎる武田家の女たち
そして信玄を取り囲む女性達も絢爛豪華です。
まずは母・大井夫人(若尾文子)。ナレーションを務めたのも、この大井夫人でしたね。ドラマの最後に言う、
「今宵はここまでに致しとうござりまする」
は、この年の「流行語大賞」に選ばれるほどの知名度でした。バラエティなどでもよくパロディで使われていたのを覚えています(笑)。
信玄の正室・三条の方には紺野美沙子、側室・湖衣姫には当時人気絶頂のアイドル・南野陽子、同じく側室の里美には大地真央、側室・恵理には池上季実子・・
いやいや羨ましすぎでしょ、贅沢すぎでしょ。若尾文子さんとかもそうですが、やっぱりこの時代の女優さんって本当にお綺麗です。目の保養という言葉がぴったりですね(汗)。
美しい姫君たちはこの硬派な男の世界を描いた大河ドラマの清涼剤といったところでしょうか。しかし女性としての苦悩や葛藤もしっかり描かれており、戦国時代に生きる女性の過酷な運命というものもヒシヒシと伝わってくる内容となっています。
ただ美人が綺麗な着物を身に纏っているというだけじゃないんですよねえ。中身もやっぱり凄い女優さんばかりだという事です。
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