迷走作品か名作か?大河ドラマ「炎立つ(ほむらたつ)」渡辺謙と村上弘明主演三部作の唯一残念な点とは?

時代劇

暮れも押し迫ってきましたが、この時期の個人的な楽しみと言えば、何といってもNHK大河ドラマです。現在の大河はいよいよ物語の最終盤に入って最終回へとまっしぐら。そして、年が明ければ新しい大河が始まる。これはもう自分の中では体に染みついてしまったサイクルですね。

さて、近年視聴率低迷が話題になる事の多いこのNHK大河ドラマですが、大河に関するこんなニュースを見つけました。

半年しか放送せず NHK大河ドラマの迷走時代を振り返ろう

1993年から1994年にかけて放送した大河ドラマ3作品の話題です。1993年1月から6か月放送の「琉球の風」、1993年7月から9か月放送の「炎立つ」、1994年4月から9か月放送の「花の乱」の3作品ですね。

ニュースタイトルには迷走とありますが、これはドラマの内容云々というよりも、ずっと貫いてきた1年クールを崩した作品という事と、いずれも視聴率が低迷したという意味における「迷走」という意味ですね。

ドラマとしては「炎立つ」と「花の乱」、この2作品は非常に面白かったです(「琉球の風」は見てません、ゴメンなさい涙)。個人的に見てきた歴代大河ドラマの中でもお気に入りの2つです。確かに9か月という中途半端な放映期間は迷走と言えるかもしれませんが、内容的には非常に素晴らしい出来でした。「視聴率=ドラマの良し悪し」ではないという事は声を大にして言っておきたいと思います。

というわけで、この迷走と呼ばれている「炎立つ」と「花の乱」について感想やら見どころやら素晴らしい点やらをここではご紹介してみようと思います。

まずは「炎立つ」から。

高橋克彦原作の「炎立つ」は大河史上2番目の古き時代、奥州藤原氏四代を描く

それではまず最初に第32作目のNHK大河ドラマ「炎立つ」の番組プロフィールをご紹介しましょう。

ジャンル :歴史ドラマ
放送期間 :1993年7月4日~1994年3月13日
放送時間 :毎週日曜日20:00~20:45
ドラマ枠 :大河ドラマ
放送回数 :全35話
制 作 局:日本放送協会(NHK)
音   楽:菅野由弘
原   作:高橋克彦(第3部は原案)
脚   本:中島丈博
ナレーター:寺田農
主   演:渡辺謙(1部&3部)・村上弘明(2部)
主 人 公:藤原経清・清衡・泰衡
時   代:平安時代後期~鎌倉時代初期
平均視聴率:17.7%

平安時代後期に起こった前九年の役と後三年の役、さらには源頼朝による奥州征伐という中世期の東北地方に一大帝国を築いた藤原四代の栄華と滅亡を描いた「炎立つ」。時代設定としては、平将門の生涯を描いた加藤剛さん主演「風と雲と虹と」(天慶承平の乱/平安中期)に次ぐ大河ドラマ史上2番目に古い時代設定という事になります。

大河ドラマはおろか、他の時代劇でもほとんど取り上げられていない前九年・後三年の役という馴染みの少ない時代設定と一般ファンでも知っているようなメジャーな人物がほとんどいないという1部と2部のハンデは、視聴率の苦戦の大きな原因となったと個人的には思います。ただし、だからこそ本当に楽しめたと個人的にも思っています。このNHKの実験精神、チャレンジ精神には本当に感謝したいです。おかげで素晴らしい作品を残してくれたのですから。

原作は高橋克彦さんの同名小説で脚本は中島丈博さんが担当。ただし、3部に関しては高橋克彦氏の原案という事となっていますが、詳細は3部の項でご紹介します。

音楽は菅野由弘さん。菅野さん作の勇壮なイントロで始まるオープニングテーマはまさに血沸き肉躍る、奥州の独立のために戦った東北の英雄たちの熱き戦いを想起させる名曲です。この音楽がかかっただけでアドレナリン噴出ってやつです。

素晴らしい音楽を提供してくれた菅野さんですが、大河ドラマを担当したのはこの「炎立つ」のみ。大河再登板を願ってやまない作曲家です。

では、第1部から部ごとのストーリーや時代背景、見どころなどをご紹介しましょう。

第1部「北の埋(うず)み火」主人公:藤原経清(ふじわらのつねきよ/渡辺謙)

「炎立つ」は奥州藤原家の歴代当主たちの人生と、藤原家の成り立ちから滅亡までを描いた平安~鎌倉時代の大河ドラマです。

開祖・経清に始まり、初代・清衡、3代・秀衡、4代泰衡までを3部に分けて放送したのですが、初代経清から4代泰衡までの時代は約150年という長期間。正に大河という名に相応しいスケールのドラマでした。

主演は、今や「世界のワタナベ」とまで呼ばれるようになった渡辺謙さんが、大河史上最高視聴率を誇る「独眼竜政宗」以来6年ぶりに務める事でも当時話題になりました。

この謙さんが第1部の主人公・藤原氏の開祖である経清と第3部の主人公・奥州藤原家第四代当主の泰衡を演じ、第2部の主人公・奥州藤原家初代清衡を村上弘明さんが演じます。

第1部は朝廷と源氏・清原氏と安部氏との抗争となった前九年の役(永承六年~康平年/1051~1062年)を中心に描かれています。平安時代後期にあたる時代ですね。

この「炎立つ」は1部・2部が時代的に大河ドラマで殆ど取り上げられていない、歴史ファン以外にはあまり馴染みのない時代だったのが視聴率の伸び悩んだ大きな原因だと個人的には思っているんですが、個人的にはだからこそ面白かったです。第1部の経清が俘囚と呼ばれて中央から虐げられる安倍貞任(あべのさだとう/演:村田雄浩)ら友や妻・結有(ゆう/演:古手川祐子)や岳父・頼時(里見浩太朗)ら家族のために立ち上がり巨大な中央権力と勇猛果敢に戦う様は、ひたすら、ただただひたすらにカッコよくて心揺さぶられました。

衆寡敵せず敗れて捕らえられた後、経清は非常に惨い最後を迎えるのですが、この渡辺謙の演技もまさに鬼気迫る凄まじいものでした。恐らく大河ドラマ史上最も残酷な主人公の死といってもいいかもしれません。とにかく経清の最期を演じた渡辺謙さんの演技は凄まじいとしかいいようのない魂の熱演で大河ファンには必見といえる名シーンです。

その最後の残酷な現実は恐らく現在の大河では表現できないでしょう。が、それが正に史実通りの現実であり、この凄惨ともいえる描写があったればこそ、後の初代・清衡の藤原家再興への願いや4代続く栄華をより際立たせることになるのです。

最高にエキサイティングな第1部「北の埋み火」。敗れはしたものの北に炎を熾した経清らの残した爪痕をこれほど見事に形容したタイトルもまたお見事!!ですね。

第2部「冥(くら)き稲妻」主人公:清原(藤原)清衡(きよはらのきよひら/村上弘明)

そして第2部は経清の子・清衡の人生が描かれます。第2部の中心となるのは源氏と清衡が清原氏と戦った後三年の役(永保三年~寛治元年/1083~1087年)です。この戦いを経て清衡が奥州の覇者となるまでの物語です。

朝廷に対する反乱者の子として忍従の境遇にありながら奥州藤原家の初代になるまでのドラマとなるこの2部ですが、勇猛果敢で爽やかな好男子・経清とは違った、まさに堅忍不抜の苦労人・清衡を村上弘明が見事に演じ切っています。村上さんといえばこのドラマの舞台となった岩手県出身の俳優さんです。

この第2部「冥き稲妻」にもなかなか過激で凍り付くようなセリフがあります。一部大河ドラマファンの間では有名なのですが、

「ぶっ殺す!!」

というセリフです。時代劇、とりわけ大河ドラマではほとんどお目にかかる事もないようなセリフですよね。だからこそ衝撃は大きく、今でもはっきりと覚えているのです。

そんな衝撃的セリフの主は、清衡の異父弟・家衡を演じる豊川悦司さん。当時の豊川さんはまだまだ今ほどのメジャーな俳優ではなかったのですが、この家衡役はインパクト十分でした。特に、異父兄の清衡への怨念を思わず口に出した「ぶっ殺す!!」は表での清衡に対する爽やかな好青年振りのあとの裏の顔への豹変振りと合わせて狂気すら感じさせるものだったのです。当時の豊川さんは武田真治さんと共演してカルト的人気を誇っていたフジの深夜ドラマ「NIGHT HEAD」(ナイトヘッド)で注目を集めるようになっていましたが、個人的にはこの家衡役で一気に実力派俳優としてのし上がっていったのだと思っています。

父・経清の最後に立ち会った源氏の棟梁・義家の最後の清衡に対するセリフもなかなか見どころです。それまで清衡のよき理解者としてどちらかと言えば味方のような存在だった義家の、藤原氏再興という悲願を成し遂げた清衡に対するまさかの言葉。義家のキャラ設定が180度変わる程のこれまた衝撃でした。

いやいやでもいいですねぇ、このドロドロ具合(笑)。これも今の大河にはすっかり無くなってしまった要素といえるでしょう。

ちなみに義家を演じたのは若き日の佐藤浩市。すでに大物俳優の貫録さえ身に付けており、圧巻の源氏伝説の大将・八幡太郎義家公を演じてくれています。

その他にも清原真衡役の萩原流行さんや吉彦秀武役の蟹江敬三さんら個性派俳優が存分にその個性を発揮するくせ者が大勢いて面白さ満載です。やっぱ脇の俳優さんの力量って大切だなと改めて感じさせてくれますね。

第3部「黄金楽土」主人公:藤原泰衡(ふじわらのやすひら/渡辺謙)

そして、源頼朝、義経、武蔵坊弁慶など、いよいよ有名どころが出てくる平安末期の源平争乱期(1160~1180年代頃)を舞台とした3部なのですが・・・わたしは1部・2部の素晴らしさをこの3部にはあまり感じることが出来ませんでした。同じように感じる大河ドラマファンは結構いるみたいで、1部・2部に比べて評価が低い論調が多いです。

一番の原因と言われているのが、高橋氏の原作の遅れなどによって原作無しの作品になってしまった事です(三部は高橋克彦氏の原作でなく原案)。高橋克彦氏の原作に先立つ形で脚本が進められたこともあり(所謂メディアミックスというやつです)、原作と脚本の描写の相違などによって製作者との間に軋轢があったと言われています。さらに出演中の大物俳優とのトラブルも伝えられるなど、裏舞台は何やらきな臭い話が満載です(苦笑)

まあ理由がなんにせよ、わたしの中では3部が失速してしまったのは何より残念で、もし1部・2部と同じような勢いが3部にあったなら私の中でのベスト大河ドラマになっていたかもしれません。1部と2部が素晴らしかっただけに残念でなりません。本来ならばこの源平争乱期にあたる第3部というのは、源頼朝・義経兄弟に武蔵坊弁慶、後白河院、藤原秀衡といったメジャーどころが顔をそろえるだけに、最も盛り上がりが期待出来ただけに尚更ですね。

藤原氏の開祖・経清に続いて最期の当主となった四代・泰衡を演じた謙さんの経清とは全く違った演技は流石の一語に尽きます。神経質そうな源頼朝役の長塚京三さんも素晴らしかった。

ただし、物語のキーマンとなる源義経(野村宏伸)と武蔵坊弁慶(時任三郎)は重要キャラとしてやや物足りなさは否めず、藤原秀衡(渡瀬恒彦)も1部2部の藤原家当主のような魅力に乏しかったと言わざるを得ません。

何よりも物語に1部や2部のような血沸き肉躍るようなワクワク感がうせてしまっていたと感じました。歴史的事実を羅列するだけの盛り上がりに欠ける何とも淡白なものとなってしまったという感じでしょうか。まあ前述したように1部と2部があまりに素晴らしすぎたというのもあるのでしょうが…

迷走期ドラマ故に過小評価されている?規制の強くなった現在では作れない骨太な名作大河ドラマ

このように、3部作にして主演(主人公)を分けて奥州藤原政権の誕生から滅亡にわたる100年以上の長き歴史を描いたり、年またぎの7月から3月までの9か月放送など、異色作なのは間違いない「炎立つ」。

が、東北地方に燦然と輝いた熱き東北の男たちの戦い、そして中央の権力を巡る謀略や裏切りなど、大河ドラマの醍醐味がギッシリ詰まった名作です。何度も言います。3部の出来が惜しまれますが・・・(涙)

大河ドラマの迷走期に放映された作品という事で何かと影の薄さを感じる本作ですが、間違いなく名作です。最近は規制が強くなってマイルドになってしまった旧来の大河ファンにとっては堪えられないドラマです。もうこんなのは作れないんだろな…

花の乱のレビュー・感想に続きます。

コメント

  1. Yさん より:

     ほむら立つは、勉強嫌いな中学生のころ兄弟の仲で俺ひとり夢中になって見てた。そんなバカ学生すら夢中にさせる作品だったんやね。アンタの記事みて妙に納得したわ。試験でもその時代はパーフェクトだったよ(ただ家族の中で俺ひとりだけ必死にみてたんだよな・・・)
     で、次の花の乱こそ見るべきだった!
    実は山名宗全率いる西軍の終結地であった此隅山城の近所に生まれ育ったから・・・ 熱い記事を見て、必ず見ようと思ったぜ!(地元民も話題に出してない事から視聴者は少なかったんだろうな・・)

    • りぞっと より:

      此隅山城といえば出石ですね。近くの鳥取県に住んでるのですが、行ったのは10年以上前にたった一度きりですがホントにいいとこだった印象です。
      是非「花の乱」見てみてください。記事でも書きましたが、宗全役の萬屋錦之介と細川勝元役の若かりし野村萬斎のバトルは鳥肌ものです。実質この二人が「花の乱」の主人公です。
      この二人が退場した後のドラマは出がらしのように感じてしまうかもしれませんが…わたしがそうだったので(苦笑)