1972年(昭和47年)に「必殺仕掛人」がスタートして以来、45年の歴史を誇る必殺シリーズ。
ここではそんな時代劇の歴史を彩ってきた人気時代劇、必殺シリーズの数ある作品の中でも最も印象に残る回、名作として語り継がれる神回をご紹介したいと思います。
お金で晴らせぬ恨みを晴らすという必殺シリーズの様式美が確立された神作・必殺仕置人1話
ここでご紹介する必殺シリーズの傑作神回は、必殺シリーズ2作目の「必殺仕置人」第1話の「命を売ってさらし首」ですね。
シリーズ1作目の「必殺仕掛人」はご存知巨匠・池波正太郎の傑作小説「仕掛人・藤枝梅安」シリーズを原作としたものでした。しかしこの「必殺仕置人」は原作の存在しないオリジナル作品です。必殺シリーズで原作があるのは前述した「必殺仕掛人」と3作目の「助け人走る」の2作品のみ。その他の作品は全てオリジナル作品となっています。その意味で言えば、この「必殺仕置人」こそが本当の意味での必殺シリーズの原点だという見方も出来るかもしれません。
そして、必殺仕掛人では元締めの音羽屋半兵衛がいて、彼から仕掛人である藤枝梅安(緒形拳)や西村佐内(林与一)に裏仕事が要請されるというフォーマットが第1話からすでに確立されていました。しかし、「必殺仕置人」はそうではありません。
第1話開始時点での仕置人たち、つまり中村主水や念仏の鉄、棺桶の錠といった名物人気キャラクターたちは、お金をもらって頼み人の代わりに恨みを晴らすという仕事(仕置)を請け負ってはいません。もちろんそれぞれが凄腕の使い手なのですが、第1話スタート時はただのごろつき仲間といった体です。そんな仕置人メンバーたちは、とある事件と関わり合いになったのをきっかけとして、銭を貰って殺しを引き受けるという「仕置人」稼業を始める事となったのです。今の必殺シリーズの大きな様式美、骨格が決まったのが「必殺仕置人」第1話なのです。
ハッキリ言ってその事実だけでも歴史的な、とてつもない重要性をもった回であるといってもいいと思いますね。
念仏の鉄、棺桶の錠、おきん、半次、そして中村主水。必殺シリーズ最強メンバーがここに!
必殺シリーズにはそれぞれの作品において個性あふれる「殺し屋」たちがおり、基本的にはそれぞれの作品でそれぞれがグループを作って仕事を遂行していきます。いわば作品の数だけグループが存在するのですが、必殺ファンの間でこの「必殺仕置人」のメンバーこそが最強・最高だという意見も根強くあります。わたしもこの「必殺仕置人」のメンバーは大好きで、最強かは置いておいて、個人的には最高のメンバーであると考えますし、とても大好きなメンバーたちです。ではそれぞれをちょっとご紹介しましょう。
念仏の鉄(ねんぶつのてつ) 演:山崎努
この必殺仕置人の主人公(エンディングテーマでのトップクレジット)です。殺しの実行部隊であり、骨外しや骨砕きなど様々な技を駆使して相手を戦闘不能へと陥れます。金にがめつく女が大好き、ドライで享楽的な性格。欲望に忠実な凄腕の殺し屋です。とにかくカッコイイです。惚れます、痺れます。個人的に必殺シリーズで一番好きなキャラクターです。
棺桶の錠(かんおけのじょう) 演:沖雅也
念仏の鉄と中村主水という、煮ても焼いても食えない仕置人とは違い、若さゆえの情の厚さや熱い心を持つ琉球(現在の沖縄)出身の青年。鉄、主水と同じく殺しの実働部隊であり、着脱式(アタッチメントタイプ)の手槍を武器としてターゲットを仕留めます。琉球空手による肉弾戦も得意としており、その身体能力の高さは必殺シリーズ随一といってもいいでしょう。女嫌いの熱血漢という、相棒ともいえる念仏の鉄とは正反対のキャラというのが面白いですね。
鉄砲玉のおきん 演:野川由美子
鉄や錠も住んでいる観音長屋に住む、気風のいい姉御肌の江戸っ子女性。職業は不詳。金にはちょっと汚いですが、さっぱりした性格で鉄、主水、半次らからは女として見られていない仕置人グループの密偵役です。江戸っ子かと思いきや、第20話「狙う女を闇が裂く」では、飛騨国高山壬生川村の出だという事が明らかになっています。半次との名コンビはこの仕置人の次の次、第4作目である「暗闇仕留人」でも継続される事となります。
おひろめの半次 演:津坂匡章(現:秋野太作)
鉄砲玉のおきんとともに仕置人メンバーの密偵役を務めるのが瓦版屋を生業とするおひろめの半次。半次もおきんと同様、この後の「暗闇仕留人」にも密偵役で再登場します。最終回では敵の罠にかかってあわや打ち首というところまで追い詰められますが、鉄や錠の助けによって九死に一生を得た半次。その後解散時に「こんないい連れ合いはいねえよ!」の一言は心に染みましたね。野川由美子さんと秋野太作さんのコンビは密偵役の中で一番好きなコンビですね。
天神の小六(てんじんのころく) 演:高松英郎
天神の小六(てんじんのころく)は、いわゆる俗に言う殺しに関わる「○○人メンバー」といった類ではありません。闇の世界の超大物で身の安全を図るために敢えて牢の中で生活しています。当然牢番などの牢屋敷の役人も配下のようなものであり、牢に出たり入ったりも自由にできる程です。中村主水とは旧知の仲であり、その縁で鉄や錠とも知り合い、時には力になる頼もしい男、それが小六です。
中村主水(なかむらもんど) 演:藤田まこと
必殺シリーズの顔として君臨した八丁堀同心、昼行燈(ひるあんどん)の異名を持つ中村主水。表の顔は仕事の出来ない同心で家に帰れば嫁と姑に頭の上がらない入り婿、しかし裏の顔はとてつもない剣の達人で闇の仕置人。こんな史上最高にカッコいいダークヒーローは正真正銘、この「必殺仕置人」で誕生しました。仕置人第1話での仕置シーンは必見です。まさに歴史が誕生した瞬間といっても過言ではありません。
必殺仕置人第1話「命を売ってさらし首」のあらすじ・ストーリー
物語は、観音長屋に住む棺桶屋を営む琉球出身の青年・錠がやくざ者に追われていた一人の娘を助けたところから始まります。そう、全てはこの取るに足らない事から始まったのです。
この娘は田舎から父親を探して上京してきました。しかしこの娘が見たのは、ただの田舎の百姓に過ぎない自分の父親が、闇の御前と呼ばれた大盗賊として打ち首獄門となってさらし首にされている衝撃的な場面でした。この娘をひょんなことから助けた棺桶の錠は、同じ観音長屋に住む鉄や鉄砲玉のおきん、それに瓦版屋の半次、そして南町奉行所同心の中村主水を「金になる仕事」という嘘で釣って、娘の父親が獄門晒し首となった謎の真相を追う事となり、やがて…
仕置場面、ラストシーン、鉄と主水の初登場、そして名悪役・・見どころ満載です
ハッキリ言って多くの見どころがある回です。さすがは必殺ファンの間でも長年にわたって人気の高い回なだけはあります。
個人的な一番の見どころは、やはり闇の御前こと浜田屋庄兵衛と南町奉行所同心・的場の仕置シーンですね。闇に消えた中村主水が、あの超有名な仕置のテーマに乗って錠、そして頼み人である娘・お咲と3人で現れる場面は何十回見ても未だに鳥肌が立つほどカッコいいです。ここは当然必見でしょう。
次にラストシーン、鉄や主水、おきん、半次が錠の家に集まって、仕置人として闇の仕事をしていくと宣言する場面です。ここで若者ゆえの純粋な正義感を捨てきれないでいる錠に覚悟の決意を迫るのです。そして金を受け取るか受け取らないかの選択を迫られた錠は・・?ここもやはりいいですね。外せません。
中村主水と念仏の鉄の初登場シーンも素晴らしいです。縁日で袖の下(賄賂)をせびる主水、その腕を持ち前の怪力で締めあげる鉄。そしてニヤリと笑う二人・・。必殺シリーズきっての人気キャラの二人の初登場にして初ツーショットシーン。「新仕置人」の最終回「解散無用」での二人を知っているファンからすれば言葉で言い表せない感情に支配される場面でもありますね。
さらに素晴らしいのがやはり悪役たち。庄の字と呼ばれた闇の御前をあの名優・大滝秀治さん。鉄に男性として不能にされた牧野備中守を名悪役・「すがかん」こと菅貫太郎さん、さらに主水の上司である悪徳役人の的場様役を近藤宏さんがそれぞれ素晴らしい悪役で演じ切りました。名時代劇に名悪役あり!この当たり前ともいえる方程式を改めて思い出しましたね。今の時代劇に決定的に欠けているもの、それこそが名悪役なのではないでしょうか。昔の時代劇を見るとその思いをより強くしてしまいますね。
1973年(昭和48年)放送という古臭さを感じさせない内容的素晴らしさ
この必殺仕置人の第1話、「いのちを売ってさらし首」は欲望に忠実な男臭さやハードボイルドストーリーといった、初期必殺シリーズの魅力がたっぷりと詰まった珠玉の名作です。今見ても全く色あせる事はありません。この必殺仕置人第1話の放送日はなんと、1973年(昭和48年)4月21日。今から44年以上前の作品です。当然映像などはフィルムの経年劣化などで古臭いのですが、その中身は素晴らしいの一語に尽きます。
必殺シリーズはその長い長い歴史、そしてその間に生まれた数多い傑作シリーズの数々などによってファンも多様であり、それぞれの作品に熱狂的なファンがいる事でも有名な人気時代劇シリーズです。その長い長い必殺シリーズの歴史の中でも屈指の人気を誇る中村主水と念仏の鉄が揃って初登場した作品なのですから、必殺ファンにとってこの「必殺仕置人」シリーズがどれ程特別かは明らかです。そしてその記念すべき第1話なのですからその思い入れたるや火を見るよりも明らかといっていいかもしれません。
必殺初期ファンでまだ見ていない人も、必殺後期ファンで初期作品をあまり知らない人も、とにかく必殺好きには見てもらいたいのがこの必殺仕置人第1話「いのちを売ってさらし首」です。気にいるか気に入らないかはあなた次第ですが・・(笑)。
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