1972年(昭和47年)に「必殺仕掛人」で放送が始まった、現在でも人気を博している時代劇、必殺シリーズ。
幾多の名作を生んだ必殺シリーズの中でも高い人気を誇るのが、「新必殺仕置人」。そして新必殺仕置人といえば、やはり必殺ファンに名高い伝説の最終回「解散無用」でしょう。ここでは必殺ファンの多くから必殺シリーズ最高の傑作回との評価を得ている、伝説の最終回の凄さをご紹介したいと思います。
中村主水(藤田まこと)初トップクレジット「新・必殺仕置人」
まずは最終回の話題に行く前に簡単に「新必殺仕置人」についてご説明しておきます。
「新・必殺仕置人」は1977年1月から同年11月まで放送された、中村主水出演作品5作品目にして必殺シリーズ通算10作目のドラマです。
そして、これまではクレジット上は主役ではなかった(トップクレジットではない)藤田まことさん演じる中村主水が、クレジット上の主役になった作品でもあります(鉄役の山崎努さんはトメ)。藤田さんのクレジットタイトル問題など、新仕置人制作危機については以下の記事もご覧ください。
[時代劇事件史]藤田まことと菅井きんが降板で山崎努説得も?新必殺仕置人での主水シリーズ終了危機事件
以下がこの新必殺仕置人の主なレギュラー出演者です。
中村主水 藤田まこと
念仏の鉄 山崎努
巳代松 中村嘉葎雄
正八 火野正平
おてい 中尾ミエ
せん 菅井きん
りつ 白木万理
死神 河原崎健三
元締・虎 藤村富美男
主水、鉄、巳代松が殺しの実行部隊、正八とおていが密偵役、この5人が仕置人グループです。
そして江戸の仕置人グループたちを取り仕切る仕置人の集まり、寅の会の元締めが虎、虎の配下の凄腕の殺し屋が死神です。
鉄や主水ら仕置人グループと、元締めである虎との関係という新機軸も描いた辺りが、大人気ヒットシリーズとなった大きな要因でもあると思いますが、まあ人気の一番の要因は鉄と主水という、必殺史上屈指の人気キャラが2人も揃ったのが大きいと思いますね。他の俳優さんや演出、脚本が素晴らしいというのはもちろんとして。
同心・諸岡と殺し屋・辰蔵を演じる清水紘治と佐藤慶の悪役演技の凄さ
必殺シリーズの最終回の御多分に漏れず、この新必殺仕置人の最終回も中村主水らの仕置人グループに解散危機が襲い掛かります。いってみれば、必殺シリーズ最終回におけるお約束的展開が繰り広げられることとなるのですが・・
とにかくその展開のドラマティックさやハードボイルドさといい、仕置人たちを襲う危機の大きさといい、仕置人たちのその後の運命の過酷さといい・・
この「解散無用」は全てが別次元の面白さと衝撃なのです。
まず物語は、巳代松(中村嘉葎雄)の仕置シーンから始まります。いつものように手作りの短筒でターゲットを仕留めて現場を去ろうとした瞬間、巳代松は殺しの現場に踏み込んできた大勢の捕り方とその捕り方を指揮する同心・諸岡左之助(清水紘治)によってお縄にされてしまうのです。
そしてこの諸岡は寅の会に所属する殺し屋・辰蔵(佐藤慶)とグルであり、辰蔵は元締めの虎に代わって江戸の仕置を牛耳ろうと考える悪党だったのです。辰蔵のタレコミによって巳代松はお縄になり諸岡の熾烈な拷問の餌食となってしまいます。そして辰蔵は巳代松の釈放を条件に鉄に仲間になるよう迫る・・という展開となるのですが・・
まあこの諸岡と辰蔵が最強の悪役コンビなのです。とにかく必殺シリーズ最強の悪役コンビといっても差し支えないでしょう。最強の悪役あってこそ最高の仕置人が光るのです。その意味からしてもこの「解散無用」は悪役からして最高傑作の条件を兼ね備えているといっていいでしょう。
軽いトラウマ?巳代松(中村嘉葎雄)の衝撃の拷問場面から廃人へ・・
ぶっちゃけますとこの新仕置人の「解散無用」、問答無用の神回であることは間違いないのですが、個人的には軽いトラウマ回でもあります。その原因は、前述した悪徳同心・諸岡佐之助の熾烈かつ残虐非道な巳代松に対する拷問場面、そしてその結果として巳代松が廃人となってしまう場面です。
この拷問場面と拷問によって廃人同然となってしまった後の巳代松の演技が凄すぎて、軽いトラウマとなってしまっているのです。それほど巳代松役の中村嘉葎雄さんの演技はリアルです。
拷問で苦しむ場面と、熾烈な拷問によって全ての機能を失ってしまった後の表情は凄いの一語です。特に廃人となった巳代松を迎えに行った中村主水との対面シーンの巳代松の表情、さらにその変わり果てた巳代松と対面した主水の表情、これは忘れることが出来ないほどの名場面ですね。
トラウマといいましたが、それほどにショッキングな展開だったというのが一番大きな要因であり、それに拍車をかけたのが中村嘉葎雄さんのリアルな名演技だったというのが正解かもしれません。
命綱の右腕を黒焦げにされ、女郎の布団の中で絶命した念仏の鉄のらしさ
巳代松、主水とともに仕置人メンバーとしてお馴染みの念仏の鉄。この必殺シリーズ屈指の人気仕置人もこの最終回で命を落とすこととなります。
この最終回での鉄は、巳代松を諸岡の魔の手から救うために辰蔵の元へと趣き、逆に罠に落ちて右手を焼かれてしまいます。
骨外し、骨砕きを行う右手を焼かれてしまったことによって仕置人としては再起不能と思われた鉄でしたが、最後はそんな手負いの状態で辰蔵と相討ちとなります。匕首で腹部を刺されながらも辰蔵を仕留めた鉄は、その傷ついた体で女郎宿へと向かい、女郎の床で絶命しました。金と色を好んだ念仏の鉄にこれほどふさわしい最期はないでしょう。
これもまた壮絶な最期でした。あの鉄が・・あの鉄の右腕がまさかあんなことに・・
この場面もまた軽くトラウマになりそうな場面でしたね。巳代松シーンと同様に衝撃的でした。
しかし黒焦げにされてとても仕置など行えないだろうと思われた右腕で辰蔵を仕留めた最後は必殺シリーズ屈指の人気殺し屋の最期に相応しいものでしたね。あの仕置シーン、さらにそのあとの女郎の布団の中での絶命によって念仏の鉄という殺し屋は誰も手の届かないレジェンドとなりました。
怒りの中村主水、悲しみの正八‥藤田まことと火野正平の名演も見事
巳代松、念仏の鉄とくれば外せないのが、中村主水。普段は一突き、一刺しで仕留めることの多い中村主水ですが、この最終回「解散無用」では熱く魂の籠った大立ち回りを演じてくれています。それはそうでしょう、幾多の死線をともに潜り抜けてきた巳代松と鉄という仲間があんな目に遭わされたのですから・・
中村主水のこの解散無用での立ち回りの詳細についてはこちらの記事に詳しく書いていますのでご参照ください。
[必殺最強殺し技別]刀・剣術編 シリーズで一番強い剣士は?必殺の顔、昼行燈の南町同心は何位?
さらに密偵役の正八(火野正平)もいい演技をしています。松の処遇を巡って鉄に突っかかる場面、さらに鉄の手を焼かれる場面を目にして一人で立ち向かうところを主水に止められる場面、そして巳代松の乗る大八車を一心不乱に押す場面・・。どれもが火野正平という俳優の凄さを思い知らされる名シーンです。この「解散無用」を見れば数多くの密偵役が生まれた必殺シリーズの中でも正八が屈指の人気を誇っているのがわかると思いますね。
主水も正八もこの過酷な辰蔵との戦いで生き残る側です。生き残ったからこその切なさや悲しさをこの二人は存分に示してくれています。
必殺仕置屋稼業最終回と並ぶ最高傑作回、「解散無用」
巳代松は廃人となっておてい(中尾ミエ)とともに江戸を去り、鉄は女郎屋でその人生を閉じました。元締めの虎も辰蔵によって(実行犯は配下の吉蔵ですが)闇に葬られました。
残った中村主水と正八は続く「必殺商売人」で再びタッグを組むこととなったのですが、やはり主水、鉄、松、正八、おていというこの五人の存在感の強さは改めて思えば奇跡のタッグに近いものがありましたね。
この「新・必殺仕置人」の元となった「必殺仕置人」でのメンバー、中村主水、念仏の鉄、棺桶の錠、おひろめの半次、鉄砲玉のおきんも素晴らしかったですが、新仕置の五人も甲乙つけがたいメンバーでした。
個人的にはこの新仕置の解散無用は、必殺仕置屋稼業の最終回「一筆啓上崩壊が見えた」と並ぶ必殺シリーズ最終回の中でも屈指の傑作回だと思っています。
必殺ファンの間でも神回として未だに語り継がれるこの新必殺仕置人の「解散無用」。見たことのない必殺ファンにはまさにマストの回であることは間違いありません。
コメント
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月日が流れた現在、先入観抜きで見直した結果。(必殺仕掛人は別格)
主水が出る作品ではやっぱり仕置人です。
原点の一つでありパイオニアですので。
以後の作品では主水人気に依存している感が否めません。
新仕置も虎の会で殺し屋がクローバル企業化している設定になっている時点でリアリティ的な疑問を抱きます。
そもそもやくざ映画みたいな組織闘争見るために必殺観ているわけではありませんよね?
むしろ70年代までの主水が出ない必殺の方が人間臭く、よく作りこまれているように思います。
それ以後の作品は従前の感想しかありませんが、今なお語り継がれるのはそれら苦悶しながらマンネリ化した駄作が継承してくれたからに他なりません。
ジャニーズから入った人はさぞや旧作がどぎつく感じる事でしょう。
近年は俳優も時代劇経験がなく、かつての作り手もいないから、からくり人以前のような作品を見ることが出来ないのは残念至極です。
個人的には主水作品としては「必殺仕置人」と「必殺仕置屋稼業」、非主水作品では「必殺仕掛人」「助け人走る」「必殺からくり人」が好きですね。どうしても初期作品になってしまいます。
「新仕置」に関しては、後期シリーズに通じる「軽さ」や「バラエティ感」が鼻についてしまいます。個々のエピソードについては素晴らしいものもあるのですが、全体としてみると散漫な印象は否めません。全話を通した評価となると前述の作品からは大きく落とさざるを得ませんね。