新・必殺仕置人最終回の「解散無用」や必殺仕置屋稼業の最終回、「一筆啓上崩壊が見えた」等の必殺ファンの間でも未だに神回として評価の高い傑作回をこれまでもご紹介してきた当サイトですが、ここで紹介する回もこれらに引けを取らぬほどの名作であると断言させてもらいます。
ここで皆様にご紹介させていただく必殺シリーズの傑作回とは、助け人走るの第24話、「悲痛大解散」です。
必殺シリーズ第三作目の「助け人走る」とはどんなドラマ?
まずは「助け人走る」についてですが、「必殺仕掛人」、「必殺仕置人」に続く必殺シリーズ第3作目の作品です。第二作の仕置人の時のとある事件が原因で冠に必殺がついていませんが、れっきとした必殺シリーズです。
さらに誤解を呼びやすいのが今回ご紹介する「悲痛大解散」。タイトルからしていかにも最終回っぽいタイトルなのですが、実は最終回ではありません。この「悲痛大解散」は助け人走るの24話ですが、助け人走るは全36話まで続き、最終回は「解散大始末」というタイトルとなっています。
助け人走るのメインキャストは以下の通りです。
中山文十郎 田村高広
辻平内 中谷一郎
島帰りの龍 宮内洋
お吉 野川由美子
油紙の利吉 津坂匡章(現:秋野太作)
為吉 住吉正博
元締め清兵衛 山村聰
この七人が助け人として表の稼業、裏の稼業に携わるメインキャストです。殺しの実行役は刀を武器とする凄腕剣士・中山文十郎、キセルに仕込んだ鋭い針で急所を一突きする辻平内、空手技やプロレス技等に似た体術で相手を仕留める怪力系の龍の三人です。元締めである清兵衛もノミを使って裏稼業を行う場合もあります。
利吉と為吉は清兵衛配下の密偵で、お吉は途中で清兵衛らの裏の顔を知ることとなり密偵となった芸者です。
彼らは大工の清兵衛の元で、表の助け人の仕事(体よく言えば何でも屋)とともに、決して表ざたにはできない裏の助け人としての危ない橋を渡って、江戸の弱き人々の助けとなっていたのです。そんな清兵衛一味に降りかかった大きな災いを描いた回がこの第24話「悲痛大解散」なのです。
必殺レギュラー初の犠牲者となったのは助け人密偵役の為吉(住吉正博)
必殺シリーズといえばその歴史の中で数々の殉職者を出しており、様々な名場面を残してきた時代劇ですが、その必殺シリーズ初の殉職者が出たのがこの「助け人走る」の第24話「悲痛大解散」なのです。
この「悲痛大解散」で壮絶な死を遂げたのが清兵衛配下の密偵・為吉(ためきち)。
頼み人からもらった珍しい小判・元文小判(げんぶんこばん)から足がつき、助け人の裏稼業を暴こうとする悪徳同心・黒田(南原宏治)に捕まって熾烈な拷問を受けることとなる為吉。
為吉といえば、ここまではこのドラマでもかなり目立たない地味な、清兵衛一味の中でも縁の下の力持ち的ポジションでした。密偵としても似たようなポジションにある利吉(津坂匡章)の弟分的存在であった為吉に降りかかったこの未曽有の災難をきっかけとして、為吉の知られざる面が知られるきっかけにもなっていきます。
清兵衛配下の助け人として堅実な仕事をこなしてきた為吉ですが、実はおくに(江夏夕子)という妻と、そのおくにとの間に太吉という息子がいることがこの回で明らかになります。ただし、為吉は自身が島帰りの前科者である事、さらに助け人として裏稼業に携わっていることから、太吉には自分が父親であることを隠し、「ためのおじちゃん」と呼ばせて物心両面で影からサポートして見守ってやっていたのでした。
そんな太吉に手習いをさせてやるために買った硯や墨汁などを支払った小判が例の珍しい元文小判であり、そこから足がついて黒田に捕らえられたのは不運としか言いようのないものでした。
執拗で残酷なリアル拷問場面と助け人仲間を守る健気な為吉
この回の見どころといいますか、とにかく印象に残ったのが為吉に対する黒田の執拗かつ残虐な拷問、そして仲間や主人を守るために決して口を割らなかった為吉の真摯で健気で強い姿です。それはこの回を見た方全員の共通の感想なのではないでしょうか。
とにかくこの「悲痛大解散」で助け人の前に立ちはだかる黒田という同心は残虐な男です。それは奉行所内でも有名な話の様で、死神という異名を持つほどに執拗な男であり、自分が手柄を上げるためには無実の人間に自白させることや拷問で痛めつけることなど日常茶飯事。まさに奉行所の問題児であり厄介者であったのです。さらには助け人メンバーである島帰りの龍を島送りにしたのもこの黒田であったことが明かされていきます。
そんな死神の毒牙にかかった為吉ですが、どんな拷問を受けようと為吉は決して口を割りません。為吉が口を割れば、それはすなわち清兵衛や文十郎、平内、龍や利吉などの仲間全員の死罪、助け人の壊滅を意味します。そして死神黒田の狙いはまさにそれ。しかしどんなに痛めつけられても為吉は口を割ろうとしませんでした。
そんな中、清兵衛は申し開きのために奉行所を訪れ、為吉が使った元文小判は自分が渡したものであるといい、自分が為吉の身代わりになることを黒田に訴えます。しかし黒田は為吉を返す気はさらさらなく、為吉の口から清兵衛らの事を吐かせて全員を獄門へ送るのだと言い放ちます。そして清兵衛の前に拷問で変わり果てた為吉を引き合わせるのです。
凄惨な拷問によって為吉の着物は既にボロボロ、髪の毛は髷が外れて落ち武者のようになっています。意識がもうろうとする中、為吉は主人の清兵衛の「為吉!」という呼びかけでようやく清兵衛の存在に気づきます。そして変わり果てた為吉を見つめる清兵衛にこういいます。
「あっしの事などは心配いりやせん」
と。自分を助ける必要はない・・という意味と、自分は死んでも口は割りません・・という二つの意味があったのだとわたしは解釈しています。まさに裏稼業に生きる男の定めを貫く覚悟です。
そして「俺に何か出来る事は?」と為吉に言う清兵衛に為吉は「おくにという女と、たあぼう・・」といい、ジェスチャーで小さな子供の事を伝えようとします。清兵衛は「わかった、おくにさんとたあぼうって子供だな?」と問いかけ、為吉は安心したようにうなずきます。そして再び黒田の配下に連れていかれてしまうのですが、この時の為吉の鬼気迫る表情・・これがまた・・辛いのですよね・・
牢番が呟いた一言‥文十郎や清兵衛に為吉が見せた助け人としての意地と覚悟
為吉の拷問が熾烈を極め、それでも必死で耐えている中、為吉への対応で助け人内部にも亀裂が入りかけます。そんな中で、決して口を割らないであろう為吉、さらに決して為吉を死なせることなく口を割るまで責め地獄を味わわせるであろう黒田の性格を考慮した清兵衛は、ついに為吉の命を絶って楽にしてやることを決意。為吉の兄貴分である利吉に、奉行所に潜入して為吉の命を絶つことを命令します。
嫌がる利吉でしたが、奉行所内に潜入して為吉が繋がれている牢屋に忍び込むことに成功。利吉が「為吉!」と呼ぶと、口には竹を噛ませられて以前よりもさらにボロボロの状態になった為吉が傷ついた体を必死で引きずって利吉の元へ。利吉は「勘弁してくれ」と自分にもいいきかせるように忍び持っていた匕首(あいくち)を抜きます。それを見た為吉は全てを悟り、目を閉じて自分の首を利吉の持つ匕首の方に向けるのです。
利吉はそんな弟分の姿を見て、どうしても為吉にとどめを刺す事が出来ません。為吉の命を奪うことなく匕首を置いて逃げ去った利吉。為吉は残った匕首を静かに後ろ手で縛られた手で持ち運び、厠に捨て去るのです。僅かに笑みをたたえながら・・。この微笑の意味はなんだったのだろうと未だに考えてしまいます。
やがて、為吉以外の助け人メンバーにも黒田の危機が迫ります。清兵衛、文十郎、平内、龍、利吉の五人が別件で黒田によって捕まったのです。捕らえられた5人がまず目にしたのは体中を縛り上げられて血だらけになって吊るされている、拷問中の為吉の姿でした。
助け人の5人に対する拷問も始まったある日、いきなり黒田が拘留中の清兵衛らの元にやってきて、「運のいい奴らだ」と捨てセリフを吐きながら5人の解き放ちを命じます。思わず「為吉は??」と聞く利吉。その問いに対して不敵な笑いを見せる黒田。
やがて牢から出た5人の前に戸板に乗せられた一人のボロボロになった囚人らしき男の遺体が運ばれて来ました。黒田は笑いながら「為吉だ。一緒に連れて帰ってやんな」と吐きます。
最期まで凄惨な拷問に決して仲間の事を話さなかった為吉。そんな為吉の遺体を抱きしめる清兵衛とその光景を見ながら悲しみに暮れる文十郎たち助け人。そんな5人の後ろから黒田の拷問の一部始終を目撃していた牢番の独り言が聞こえてくる・・
「どえらい拷問だった・・。あれは・・人間のやる事じゃあねえよ‥」
明るい義賊風ドラマが一変し、暗くてハードボイルドな雰囲気となった助け人走る
為吉の仇を討つことを決意した清兵衛、中山文十郎、辻平内、龍、利吉、お吉は為吉を死に追いやった黒田や黒田の配下の鬼頭、鳴海、平岡らを始末して為吉の仇を討つことに成功しました。
しかしこの件を機に、自らの責任を痛感した清兵衛は為吉の菩提を弔うために旅に出、頭領の資格なしとして助け人の解散を決めます。残された文十郎や平内、龍、利吉、お吉は裏稼業の実行者としてマークする奉行所の詮索の目に見張られながらの裏稼業の継続を決断することとなるのですが・・
ハッキリ言ってこの「助け人走る」という作品は、必殺シリーズの初期作の中では一番といっていいほど明るい作風でした。裏の世界の陰惨さというよりは、義賊としての一面が強調されており、文十郎&平内コンビ、為吉&利吉コンビなど、明るく快活なキャラ設定も他の必殺シリーズとは一線を画するものであったと思います。
しかし、全36話の「助け人走る」はこの第24話「悲痛大解散」を契機として大きく作風が様変わりする事となります。23話までの明るい雰囲気が嘘のようにこの24話から最終話までは暗く重苦しいイメージが付きまといます。
ぶっちゃけどっちも大好きなわたし的には一つの作品で二つの全く異なる雰囲気のドラマが楽しめるこの「助け人走る」というドラマは、まさに一粒で二度おいしい(例え古っ笑)、得した気分になるドラマなのです。
みなさんはどうでしょう。初期の明るい助け人が好きか?後期の暗くてハードボイルドな雰囲気が好きか?見たことない人は見比べてみるのも面白いですよ。
住吉正博、南原宏治、山村聰、田村高広、中谷一郎ら名優たちの演技バトルも見もの
とにかくすべてが素晴らしい出来のこの「悲痛大解散」。特に素晴らしいのがやはり為吉を演じた住吉正博さんの演技と、その為吉を死に至らしめた悪徳同心・黒田を演じた今は亡き名優・南原宏治さんの演技でしょう。
住吉正博さんのセリフは少ないが、表情や仕草、体の微妙な動きで表現するその拷問の過酷さや、仲間・家族を思う気持ち、さらに助け人としての運命を受け入れる覚悟などはまさに素晴らしいの一言。思わず息を飲んだまま過ぎ去ってしまった45分でした。
そしてそこには南原さんの鬼気迫る、“いっちゃってる”悪役ぶりも欠かす事の出来ないピースとしてぴったりはまっていました。
もちろん、かつての名俳優である山村聰さん、田村高廣さん、中谷一郎さんらの名演は安定感抜群で素晴らしかったことも言うまでもありません。どの俳優さんも実績、実力十分の歴史的俳優さんばかりであり、この面子で必殺シリーズが見れるというのは本当に贅沢という言葉しか見当たらないくらいですね。
とにかく必殺ファンでこの助け人走る第24話「悲痛大解散」を見たことが無いという人は絶対に見ておくべきです。過酷な拷問といえば新・必殺仕置人の最終回の「解散無用」での巳代松(中村嘉葎雄)が必殺ファンの間では語り草となっているのですが、拷問の結果の巳代松の姿がトラウマとなった新仕置とは違って、この助け人の為吉の死は切なさややるせなさがたまりません。物語の救えなさ度では圧倒的に助け人の方が上です。
ともあれ、数ある必殺シリーズの回の中でも歴史に残る名作・傑作回であることは疑う余地もありません。ていうか、「助け人走る」って作品自体の評価が低すぎなような気が個人的にはします。仕置人シリーズや仕掛人、仕置屋稼業や仕業人といった人気シリーズと並び称されてもおかしくない名作だと個人的には思ってるんですけどね。
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