必殺シリーズといえば、長きにわたるシリーズにおいて様々なお約束、というか定形のフォーマットというようなものが生み出された時代劇としても有名です。
そんなフォーマットのうちの一つが、必殺の各シリーズにおける副題(サブタイトル)でしょう。必殺ファンの間では既にお馴染みのものかと存じます。フォーマットがなくタイトルがバラバラなシリーズもありますが、多くのシリーズでは決まった“タイトルの型”というものがあり、そこに当てはめられたサブタイトルがつけられていました。
ここではそんな個性豊かな必殺の副題を歴代シリーズ毎にご紹介しましょう。
- 必殺仕置人(1973年) 副題(サブタイトル)「いろは歌」
- 助け人走る(1973年) 副題(サブタイトル)「女郎大脱走」(例:第1話)
- 暗闇仕留人(1974年) 副題(サブタイトル)「集まりて候」(例:第1話)
- 必殺必中仕事屋稼業(1975年) 副題(サブタイトル)「出たとこ勝負」(例:第1話)
- 必殺仕置屋稼業(1975年) 副題(サブタイトル)「一筆啓上地獄が見えた」(例:第1話)
- 必殺仕業人(1976年) 副題(サブタイトル)「あんたこの世をどう思う?」(例:第1話)
- 必殺からくり人(1976年) 副題(サブタイトル)「鼠小僧に死化粧をどうぞ」(例:第1話)
- 必殺からくり人・血風編(1976年) 副題(サブタイトル)「魔窟に潜む赤い風」(例:第1話)
- 新・必殺仕置人(1977年) 副題(サブタイトル)「問答無用」(例:第1話)
- 新・必殺からくり人(1977年) 副題(サブタイトル)「東海道五十三次殺し旅 日本橋」(例:第1話)
必殺仕置人(1973年) 副題(サブタイトル)「いろは歌」
念仏の鉄、棺桶の錠、中村主水らが登場する初期の大人気シリーズの必殺仕置人。第1作必殺仕掛人の大成功を受け、原作なしのオリジナルとして必殺人気を決定付けて後のシリーズ化の流れを作った歴史的名作ドラマのタイトルが以下のとおりです。
第1話 「いのちを売ってさらし首」
第2話 「牢屋でのこす血のねがい」
第3話 「はみだし者に情けなし」
第4話 「人間のクズやお払い」
第5話 「仏の首にナワかけろ」
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第26話「お江戸華町未練なし」(最終回)
以上が仕置人の副題の一覧となっています。一見脈絡が無さげに見える仕置人の各タイトルですが、実は第1回から最終回まで頭の文字がいろは歌の順となっているのです。
いろはにほへとちりぬるを
わかよたれそつねならむ
うゐのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑひもせす
古くから「いろは四十七字」と呼ばれるこの歌の“い”から“お”までが第1話から順番に使用されています(ゐ以外の文字)。第1作「必殺仕掛人」のタイトルには決まったフォーマットが無かったので、タイトルにコンセプトが導入された初の必殺シリーズはこの「必殺仕置人」という事になります。
助け人走る(1973年) 副題(サブタイトル)「女郎大脱走」(例:第1話)
必殺仕置人殺人事件の影響によって、タイトルから「必殺」の二文字が外されたこの「助け人走る」。原作付きの異色作ですが、れっきとした必殺シリーズの名作です。この助け人の各話タイトルが以下の通りです。
第1話 「女郎大脱走」
第2話 「仇討大殺陣」
第3話 「裏表大泥棒」
第4話 「島抜大海原」
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第36話「解散大始末」(最終回)
これは分かり易いですよね。全五文字で真ん中に大という文字が入るというものです。「〇〇大〇〇」というフォーマットです。
しかし全36話中の第5話のタイトルが「御生命大切」。全36話中この回のみ大の字の位置が真ん中の3文字目ではなく4文字目にずれてしまっているのは故意なのかうっかりミスなのか、真相は謎以外の何者でもありません。
暗闇仕留人(1974年) 副題(サブタイトル)「集まりて候」(例:第1話)
前作の助け人走ると同様、タイトルから必殺の文字が消えたこの「暗闇仕留人(くらやみしとめにん)」。2作目の仕置人に続き、中村主水とおひろめの半次、鉄砲玉のおきんという3人が登場したこのドラマの副題が以下の通り。
第1話 「集まりて候」
第2話 「試して候」
第3話 「売られて候」
第4話 「仕留めて候」
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第27話「別れにて候」(最終回)
この仕留人タイトルの共通点はもう一目瞭然ですね。「〇〇て候」というフォーマットに基づいて副題がつけられています。
最終回の糸井貢(石坂浩二)の衝撃の死と「別れにて候」というタイトル、そして平尾昌晃さんが作って西崎みどりさんが歌った「旅愁」の哀愁のメロディはまさに必殺の様式美として多くのファンの脳裏に焼き付いています。
必殺必中仕事屋稼業(1975年) 副題(サブタイトル)「出たとこ勝負」(例:第1話)
必殺シリーズ第1作の藤枝梅安役で必殺の人気を作った緒形拳さんが“知らぬ顔の半兵衛”役で再登場となった、「必殺必中仕事屋稼業」。3作ぶりに必殺の冠名も復活し、必殺史上最高視聴率もマークした仕事屋稼業の主なサブタイトルをご紹介。
第1話 「出たとこ勝負」
第2話 「一発勝負」
第3話 「いかさま大勝負」
第4話 「逆転勝負」
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第26話「どたんば勝負」(最終回)
博打狂いのそば屋・知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)と風来坊のばくち打ちである侍くずれの政吉(林隆三)の二人を主人公とするこのドラマ、劇中でも博打などの勝負事が取り扱われる事が多い事でもわかるように、勝負というのがコンセプトの一つとなっており、タイトルはそのコンセプト通り、全タイトルが「〇〇勝負」という題名となっています。
必殺仕置屋稼業(1975年) 副題(サブタイトル)「一筆啓上地獄が見えた」(例:第1話)
必殺仕置人の棺桶の錠として人気だった沖雅也さんがクールな一匹狼の殺し屋、市松を演じ、中村主水(藤田まこと)と再び名コンビを組んだ必殺仕置屋稼業。そのタイトルを見てみましょう。
第1話 「一筆啓上 地獄が見えた」
第2話 「一筆啓上 罠が見えた」
第3話 「一筆啓上 紐が見えた」
第4話 「一筆啓上 仕掛が見えた」
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第28話「一筆啓上 崩壊が見えた」(最終回)
男性が手紙を書く時の冒頭で使う挨拶の言葉として有名な“一筆啓上”を用いて「一筆啓上 〇〇が見えた」を基本として〇〇の中に1文字ないし2文字の漢字を入れたタイトルとなっています。ドラマの冒頭、草笛光子さんによる前口上でも「一筆啓上火の用心」から始まっており、そことも繋がっています。
それにしても、このドラマの知名度はその出来の素晴らしさに比べると不当なまでに低いと思うのはわたしだけでしょうか。仕置人や仕掛人に比べてもこのドラマの質の高さは全く劣っていないと思うのですが…まあ初期の必殺ファンには十分わかってもらっているのでそれで良しとしますかな(苦笑)
必殺仕業人(1976年) 副題(サブタイトル)「あんたこの世をどう思う?」(例:第1話)
「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」で一躍国民的人気を博したダウンタウンブギウギバンドの宇崎竜童さんがタイトルの前口上を務めた「必殺仕業人」。シリーズ中でも最もハードボイルド感の強い作品であり、個人的にはシリーズ中でも最も、“いい意味で”やさぐれている作品だと思います。そんな仕業人のサブタイトルの共通点は…
第1話 「あんたこの世をどう思う」
第2話 「あんたこの仕業どう思う」
第3話 「あんたあの娘をどう思う」
第4話 「あんたこの親子をどう思う」
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第28話「あんたこの結果をどう思う」(最終回)
「あんたこの〇〇(を)どう思う」というのが仕業人の副題基本形となっています。阿木煬子さん作詞の「港のヨーコ…」の決めセリフ、「あんた、あの娘の何なのさ??」にかけたタイトルとなっています。
基本は「あんたこの〇〇どう思う」なのですが、全28話中唯一第3話だけが「あんたあの娘をどう思う」と、“この”ではなく“あの”になっています。ダウンタウンブギウギバンドの歌詞に意図的に寄せた、粋な例外ですね。
必殺からくり人(1976年) 副題(サブタイトル)「鼠小僧に死化粧をどうぞ」(例:第1話)
必殺の顔ともいえる人気キャラである中村主水が登場しない「非中村主水シリーズ」の中でも人気を博してシリーズ化され、計4作が制作された「必殺からくり人シリーズ」。その記念すべき第1作となった「必殺からくり人」のタイトルにもしっかりとした様式がありました。
第1話 「鼠小僧に死化粧をどうぞ」
第2話 「津軽じょんがらに涙をどうぞ」
第3話 「賭けるなら女房をどうぞ」
第4話 「息子には花婿をどうぞ」
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第14話「終わりに殺陣をどうぞ」(最終回)
元祖からくり人のフォーマットは「〇〇〇をどうぞ」というものですね。中でも「〇〇に〇〇をどうぞ」というパターンが多いです。ほとんどを早坂暁氏が担当した脚本、そして演出も俳優陣の演技も非常に秀逸な作品であり、タイトルも凝られ練られた本当に素晴らしいドラマでした。第2話「津軽じょんがらに涙をどうぞ」がギャラクシー賞を受賞した事がそれを証明しているといってもいいでしょう。
個人的には夢屋時次郎(緒形拳)が鳥居耀蔵(岸田森)暗殺に失敗して爆死したラス前13話の「鳩に豆鉄砲をどうぞ」のタイトルが心に突き刺さりますね。なるほど…鳩に豆鉄砲ってこういう意味なのね…と納得の、タイトル名も秀逸な名作なのです。未見の方は是非。
必殺からくり人・血風編(1976年) 副題(サブタイトル)「魔窟に潜む赤い風」(例:第1話)
本来であれば必殺シリーズ第9作として制作される予定だった「新必殺仕置人」が、藤田まことさんのクレジット問題や菅井きんさんの縁談などによる降板危機等によって制作延期になった事によって急きょ制作されたのが、からくり人シリーズ第2作となるこの「必殺からくり人・血風編」。そのサブタイトルの共通点とは?
第1話 「魔窟に潜む紅い風」
第2話 「非道に盾突く紅い刃」
第3話 「怒りが火を噴く紅い銃口」
第4話 「大奥の天下に挑む紅い声」
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第11話「夜明けに散った紅い命」(最終回)
からくり人血風編のフォーマットは、「〇〇〇〇紅い〇〇」という様式で統一されています。“赤い”ではなく、“紅い”という漢字を使用しているところにセンスを感じますね。
念仏の鉄という必殺屈指の人気キャラの印象が強い山崎努さんですが、この作品での土左ヱ門もわたしは大好きですね。表情一つ変えることなく相手が絶命するまで銃弾を叩き込むその姿には狂気さえ覚えます。でもそれがまたいいのです(笑)
新・必殺仕置人(1977年) 副題(サブタイトル)「問答無用」(例:第1話)
念仏の鉄(山崎努)が江戸へと戻って再び主水とタッグを組んだ、必殺シリーズ屈指の人気作がこの「新・必殺仕置人」。巳代松(中村嘉葎雄)に正八(火野正平)、おてい(中尾ミエ)を加えたこの作品。未だにこのシリーズを最高傑作と評するファンは多いですが、それも当然の出来を誇ります。以下はその主なタイトルです。
第1話 「問答無用」
第2話 「情愛無用(なさけむよう)」
第3話 「現金無用(げんなまむよう)」
第4話 「暴徒無用」
第5話 「王手無用」
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第41話「解散無用」(最終回)
必殺屈指の人気シリーズなだけにこの新仕置のタイトル、「〇〇無用」というのはファンには有名ですよね。
特に、必殺レギュラー回全700話以上の中においても最高の名作回という誉れ高き最終回の「解散無用」はこれを見ずして必殺ファンを語るなかれ!!と言っていいほどの不朽の傑作でしょう。中村主水と並ぶ人気キャラである念仏の鉄の壮絶な最期をまだ見てない方は是非!!
新・必殺からくり人(1977年) 副題(サブタイトル)「東海道五十三次殺し旅 日本橋」(例:第1話)
からくり人シリーズの第三作目となるこの「新・必殺からくり人」では、第1作に続いて大女優・山田五十鈴さんが主演として復活(演じた人物は別キャラ)。さらに第1作に続いて芦屋雁之助さんや緒形拳さんも出演する等、からくり人ならではのキャスティングとなっています。以下はその副題です。
第1話 「東海道五十三次殺し旅 日本橋」
第2話 「東海道五十三次殺し旅 戸塚」
第3話 「東海道五十三次殺し旅 三島」
第4話 「東海道五十三次殺し旅 原宿」
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第13話「東海道五十三次殺し旅 京都」(最終回)
安藤広重(歌川広重/緒形拳)、高野長英(近藤正臣)といった実在の人物が登場する本作。広重の描いた「東海道五十三次」の浮世絵に隠された仕事を解決していくというドラマのコンセプト通り、ドラマタイトルも「東海道五十三次 〇〇」で統一されています。〇〇には、東海道五十三次の53ある宿場が入ります(起点・日本橋と終点・三条大橋(京都)も含む)。
この、絵に隠された謎を暴きながらのロードムービー的なシステムはからくり人の次シリーズ「必殺からくり人・富嶽百景殺し旅」でも引き継がれる事となります。
この続き、「必殺仕事人」以降のサブタイトルフォーマットに関しては以下のリンクからお願いいたします。
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