低視聴率の失敗作ではないNHK大河「花の乱」クオリティの高さ 究極の様式美ドラマの真の評価は歴史が決める

時代劇

1年に1作というサイクルを崩して2年間で3作品が制作された1993~1994年の大河ドラマ。

そんな「迷走期」とも評される大河ドラマ受難の時代に制作された名作「花の乱」についてここではご紹介しましょう。

同じく「迷走期大河」とも呼ばれる「炎立つ」については以下からどうぞ。

迷走作品か名作か?大河ドラマ「炎立つ(ほむらたつ)」

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市川森一脚本のNHK「花の乱」は室町時代・応仁の乱を描く唯一の大河ドラマ

それではまず最初に第32作目のNHK大河ドラマ「花の乱」の番組概要をご紹介しましょう。

ジャンル :歴史ドラマ
放送期間 :1994年4月3日~1994年12月11日
放送時間 :毎週日曜日20:00~20:45
ドラマ枠 :大河ドラマ
放送回数 :全37話
制 作 局:日本放送協会(NHK)
音   楽:三枝成彰
作・脚 本:市川森一
ナレーター:三田佳子
主   演:三田佳子
主 人 公:日野富子
時   代:室町時代中期~戦国時代初期
平均視聴率:14.1%

時代設定は室町時代中期から戦国時代の序盤にかけてのもので、戦国時代の発端となった応仁の乱を初めて大河ドラマで取り上げたという実に画期的かつ貴重な作品となっています。

ただし、前作「炎立つ」と同様に一般的に全く馴染みのない時代を扱った事によって視聴者離れを招き低視聴率という結果となったのは実に残念ではあります。しかし、視聴率と作品の出来は関係ないという定説をこれでもかと実証してくれるドラマである事も間違いありません。

主人公である日野富子が幼少時に光を失った姉と入れ替わったといった市川森一さんの大胆な脚本は物議を醸しましたが、大河ドラマという観点で見れば個人的には全然ありだと思いますし、何よりドラマとして面白かったのでわたし的には何も問題ないと思います。

とにかくこのドラマは映像も音楽もすべてがただただ美しいです。このドラマにも登場する主人公の夫、室町八代将軍の足利義政が銀閣寺で表現した「詫び寂びの世界」を体現したようなドラマですね。日本人の琴線に触れる世界観なのです。

完全に主役・日野富子役の三田佳子を食ってしまった脇役たち「花の乱」

この大河は2012年の「平清盛」が更新するまで歴代大河ドラマの最低視聴率という不名誉な記録を持っていた作品です。

この「花の乱」も4月から12月までの9か月放送となった作品です。それに加えて、日本史上最大級の内乱・「応仁の乱」前後を描くという、大河ファンに馴染みの薄いマイナーな時代設定に加えて、敵味方がコロコロと入れ替わるという非常に難解な歴史というのがこの作品の視聴率低迷の最大の要因だと思っています。

主人公は応仁の乱の原因を作ったと言われる、日本史に残る稀代の悪女・日野富子。演じるのは大女優・三田佳子です。

大河の主人公である以上、いくら悪女とはいえまるっきりの悪人に描くわけにはいかないという事情は理解できます。ある程度、解釈によって主人公に対して好意的に歴史を解釈するのは致し方ないと思います。しかし、この三田佳子さんが演じた日野富子には凄みが全く感じられなかったのは残念でした。やはり日本史に残るほどの悪女とまで言われた以上、良くも悪くも傑物であったことは確かでしょう。しかし、そのオーラをこの日野富子からは感じることが出来ないのです。そんなところも視聴率低迷の要因なのかもしれませんね。

ただし、この「花の乱」のみどころは別にあります。

主人公以外の出演者たちがその圧倒的存在感で完全に主役を食ってしまっているのです。

応仁の乱の西軍総大将・山名宗全役の“よろきん”こと萬屋錦之介

応仁の乱の中心人物であり、実質的な西軍の大将・山名宗全を演じたのが、往年の大スター・「ヨロキン」こと萬屋錦之介さんです。

幕府の重鎮にして西軍をまとめるほどの器量を持つ大大名・山名宗全を完璧に演じています。流石という他に言葉がありません。その相手を威圧するほどの眼力、他を大きく凌駕するその圧倒的なオーラ、まさに西軍の総大将に相応しい存在感を示しています。

萬屋さんはこの3年後に64歳でお亡くなりになるのですが、早すぎですね。生きていらしたらまだ83歳。残念でなりません。ちなみに萬屋さんはこの3年後の大河ドラマ「毛利元就」にも出演が決まっていました。役どころは、元就に立ちはだかる山陰の雄・下剋上の象徴とも言われる尼子経久。しかし、病気のために降板してしまいます。後を引き継いだ緒形拳さんの経久も素晴らしかったのですが、萬屋さんの経久も見てみたかったですね。この宗全役があまりに素晴らしかったので残念でなりません。

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応仁の乱の東軍・細川勝元役の狂言方和泉流能楽師、野村萬斎

萬屋錦之介演じる山名宗全に対抗するのが東軍の実質的総大将である管領・細川勝元。

あの「ヨロキン」に対抗できる俳優なんているわきゃーない、そんな風に思った時期も正直ありました(汗)

この難役に挑戦したのが当時弱冠28歳の野村萬斎

テレビドラマに登場するのは初めてで、当然わたしも知りませんでした。「細川勝元演じてるの誰?」てなもんです。ところがところが、これがまた宗全に、いや「よろきん」に全く引けを取らないがっぷり四つの迫真の演技を見せるのです。野村萬斎の実力はこのドラマで世間に知らしめられる事となりました。あの萬屋錦之介演じる山名宗全と互角に渡り合える俳優が何人いるでしょう。しかもまだ28歳の世間一般には無名といってもいい若者です。この若き日の野村萬斎演じる細川勝元を見るだけでもこのドラマの価値はあると言っても過言ではありません。それくらいの鬼気迫る演技を見せてくれているのです。

NHKの朝ドラ「あまちゃん」が終わった後、「あまロス」という状態に陥った人々の事が話題になりましたが、この「花の乱」で勝元が死んでしまった後はしばし「勝元ロス」状態に陥ってしまったわたしには心中が良く理解できますよ(笑)。それ程までに光り輝く存在であったという事です。この花の乱の視聴者なら、現在の野村萬斎さんの活躍はこの時に既に確信できていたのではないでしょうか。それ程に別次元でしたね。

稀代の悪女とは思えぬ華凛すぎる若き日の日野富子を演じた17歳の松たか子

成人してからの日野富子は大女優・三田佳子さんが演じたのですが、若き日の富子を演じたのが今や大女優となった松たか子さんです。

当時の松たか子さんは17歳。映像作品初登場という事で、野村萬斎さん同様全く知りませんでした。あの松本幸四郎の娘だと知るのはもう少し先の事です。

この松たか子の初登場も衝撃的でした。

まさに、「華凛」(かりん)という一言に尽きるほどのその清々しさ。そして全く嫌味にならない高貴なるオーラ。一瞬で恋に落ちてしまいました。一目惚れとかほとんどしないタイプなんですが・・・なんなんでしょう。なんか分からないけど、とにかく輝いているのです。自分がどんな女優さんにも見たことのないようなオーラをまとっているのです。

女神の降臨…その言葉がピッタリな存在感でした。

三田さんには失礼ですが、ずっと松たか子さんで日野富子やってくんないかなって本気で願ってしまいました(ホント三田さんすんません涙)

見てない人はとにかく見て下さい。女神が降臨した歴史的瞬間を。

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市川團十郎と松本幸四郎の親子共演、役所広司、草刈正雄、藤岡弘ら名優もズラリ

山名宗全役の萬屋錦之介さん、細川勝元役の野村萬斎さん、日野富子の若かりし日を演じた松たか子さん以外にも素晴らしい俳優さんが目白押しです。

八代将軍の義政役には十二代市川團十郎さんでその若年期は実子の市川新之助さん(現:十一代目市川海老蔵)という夢の親子共演も大きな話題となりました。

さらに松たか子さんの実父である九代目松本幸四郎さん(現:二代目松本白鴎)も登場し、歌舞伎界の超大物の夢の競演が実現しています。

そして、1983年の大河ドラマ「徳川家康」で織田信長役を演じ、大河史上最高の織田信長という評価も高い役所広司さんが富子の兄である伊吹三郎役で出演。現時点で役所さん最後の大河出演となっている作品でもあります(2019年の「いだてん」嘉納治五郎役で25年振り大河出演が決定)。

当時17歳のTOKIOの松岡昌宏さんは富子の息子で九代将軍の足利義尚役を好演。この後の飛躍となりました。

富子の兄役の日野勝光を演じた草刈正雄さんは流石の怪演、西の雄・大内左京大夫政弘を演じた藤岡弘さんも圧巻の存在感でした。

この時代の大河ドラマは凄いなあ、俳優さんは素晴らしい…と思える面々が揃っています。やっぱ大河はこれじゃないとね。

三枝成彰作の珠玉のメロディと映像美がクロスする日本式様式美オープニング

その他にも若き日の市川海老蔵(当時は新之助)と市川團十郎の親子共演なども話題になった本作ですが、素晴らしいのはその映像と音楽です。

特にオープニングは圧巻の出来であり、大河ドラマ史上最も美しく幻想的であるといってもいいでしょう。

面を被った舞姿の女性の踊りをバックに桜や森、山や荒廃した都などが映し出されるまさに静の美を具現したような映像。

そして、そのバックに流れるのは三枝成彰氏が手掛けたオープニング曲。これがまた素晴らしい。ピアノの独奏から始まって次々と他の楽器が重なりながらクライマックスにむかっていくという、まさに静の映像に相応しい静から動へのダイナミズム。まさに珠玉のメロディが奏でられます。

三枝さんはこれより前に手掛けた「太平記」のオープニングも素晴らしい曲で、その才能をまざまざと見せつけてくれましたね。また大河を手掛けてくれませんかね。もうずーっと待ってるんですけどね(涙)

とにかく最初にも書きましたが、全編にわたってただただ美しい作品となっています。

そこに日本の演劇界を代表する俳優さんたちの演技が加わるのですから面白くないわけがないという事です。敵が味方となり味方が敵となる複雑な歴史は確かに分かりづらいですが、室町文化の世界観を味わうだけでもこのドラマを見る価値はあると思います。

最後に、「炎立つ」も「花の乱」も決して迷走作品等ではありません。しっかりと作り手の意思が伝わる、まごうことなき名作だと断言します。

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