ジェームス三木氏といえば、日本を代表する脚本家であり、NHK大河ドラマでも大河史上平均最高視聴率を誇る「独眼竜政宗」をはじめ、3作を担当している大御所中の大御所作家でもあります。
そんなジェームス三木さんが「独眼竜政宗」「八代将軍吉宗」に続いて脚本を担当した大河ドラマこそ、2000年に放送された大河ドラマ「葵 徳川三代」なのです。
NHK大河ドラマ39作目「葵・徳川三代(あおいとくがわさんだい)」とは?
まずは大河ドラマ通算39作目の作品となった「葵 徳川三代」の詳細についてご覧ください。
ジャンル :歴史ドラマ
放送期間 :2000年1月9日~12月17日
放送時間 :毎週日曜日20:00~20:45
ドラマ枠 :大河ドラマ
放送回数 :全49話
制 作 局:日本放送協会(NHK)
音 楽:岩代太郎
原作・脚本:ジェームス三木
主 演:津川雅彦、西田敏行、尾上辰之助
主 人 公:徳川家康、秀忠、家光
語 り:中村梅雀
平均視聴率:18.5%
最高視聴率:22.6%
徳川将軍家の初代・家康、二代目・秀忠、三代目・家光を主人公として、リレー形式でそれぞれの生涯、そして徳川家の、江戸幕府初期の歴史を描いた壮大な物語がこの「葵・徳川三代」です。
視聴率的には特にみるべきものはありません。前年の「元禄繚乱」の平均視聴率が20.2%だったので、この時代の大河ドラマとしてはやや低めの数字ともいえるかもしれませんが、特段低いというわけでもないでしょう。
ただし、コアな大河ドラマファンや時代劇ファン、歴史ファンの間では放送から17年を経た現在でも非常に評価の高いドラマです。わたしも大好きな大河ドラマです。ここからはその理由や見どころなどをわたしなりに述べてプレゼンしていきたいと思います。
岩代太郎の荘厳で壮大なOPとジェームス三木のリアルで説得力のある脚本
まずは大河ドラマの顔ともいうべきオープニング。放送開始当時は若干34歳だった新進気鋭の作曲家・岩代太郎氏の初の大河作品となりました(後に2005年放送の義経も担当)。
とにかくレベルの高いオープニングテーマが目白押しの大河ドラマですが、この作品における岩代太郎氏の曲も荘厳で流麗な素晴らしい曲です。動の前半と静の後半という前後半の対比が興味深いですね。関ヶ原、大坂の陣といった大戦のあった家康時代を前半とすれば、徳川幕府200数十年の天下泰平の基礎を築き始めたそれ以降を後半としているとわたしは解釈しています。とにかく重厚でこのドラマを体現した名曲です。
そして原作・脚本を担当した名脚本家・ジェームス三木さんの本もこれまた素晴らしい。何より主人公であるはずの徳川家康を必要以上に美化していないところがいいですね。清濁併せ持つ策謀家という一面を前面に押し出しています。その反面、徳川家にとっては不倶戴天の敵であるはずの石田三成の豊臣家に対する篤い「義」も強調されています。そんな敵対する両者に公平な脚本が物語により一層の説得力を持たせてくれています。単純な勧善懲悪ではない、リアルなドラマとなっている大きな要因はそこにあると思います。
煮ても焼いても食えないタヌキ親父の家康という実像をしっかり描いているからこそ、真面目で正義感が強い二代目の徳川秀忠、さらには戦乱を知らぬ生まれついての将軍である三代徳川家光との対比がさらに強調されてそれぞれのキャラが立っているのです。さすがは名作家・ジェームス三木!って感じです。
最年長主役の津川雅彦に最多主演の西田敏行、大河唯一となる尾上辰之助と山田孝之
キャストに関しては、主人公は徳川の初代から三代目までのリレー方式で、津川雅彦さんと西田敏行さん、尾上辰之助さん(現:四代目尾上松緑)がそれぞれの将軍を演じました。
津川雅彦さんの放送開始時60歳での大河ドラマ主演というのは、大河ドラマ54年の歴史で最年長主役の記録となっています。
さらに西田敏行さんも大河ドラマ常連俳優さんとして、今回の主演で「山河燃ゆ」「翔ぶが如く」「八代将軍吉宗」に続く4度目の大河ドラマ主演を果たしました。これによて、同じく3度の大河主演となり、主演回数で並んでいた石坂浩二さん(「天と地と」「元禄太平記」「草燃える」の3回)に先んじ、歴代大河ドラマ主演数で単独1位となりました。間違いなくこの記録は今後抜かれることはないでしょう。それくらいの大記録です。
三代将軍を務めた歌舞伎俳優の二代目尾上辰之助さんは、2017年4月現在で唯一のテレビドラマ出演となっています。それほどこの葵への出演は貴重でレアなものなのです。さらに特筆すべきは、今をときめく人気俳優の山田孝之さんが、三代将軍の青年期役で出演しているという事。山田孝之の現時点での唯一の大河ドラマ出演となっています。こちらの意味でも超貴重な作品といえるでしょう。
第1話「総括関ヶ原」のド迫力の高予算合戦シーンは後世に語り継がれ使い回される傑作
この「葵 徳川三代」というドラマの第1話のタイトルは「総括関ヶ原」。そう、いきなり天下分け目の関ケ原の戦いからスタートしたのです。
第1話で丸々関ヶ原の戦いから石田三成の処刑までをすべて描き、第2話からは関ケ原の約2年前、太閤秀吉の死去へと時間が戻って、第12話から再び関が原の戦いを描くという変則的な構成となっています。
しかしこの2度放送された関ヶ原の戦いがとにかく凄いのです。NHKには失礼ですが、もう二度とこれだけの合戦シーンを大河ドラマで目にすることは出来ないのではと思いますね。それほどスケールと迫力では以降の大河の合戦シーンの追随を許さない圧倒的ド迫力なのです。
2000年にこの関ケ原の戦いの合戦シーンが放送されて以来、様々な番組でこの葵徳川三代の関ヶ原合戦場面は使い回されてきました。それほど素晴らしい戦シーンだったという事なのです。
実はこの葵・徳川三代の最高視聴率22.6%というのは第1話の視聴率であり、最終回までこの数字を超えることはできませんでした。徳川三代を描く以上、終盤になれば合戦もなく、徳川将軍家の内実を描くという、かなり地味な印象になることは否めません。それでも流石という程に最後まで面白いドラマだったことはわたしが保証します。ただし、やっぱり初回の関ヶ原のインパクトはとにかく凄いとしか言いようがありません。
まだ見ていないという大河ドラマファンの方は是非見てみてください。素晴らしい合戦シーンを見ることが出来ます。ただし同時に今の合戦シーンに物足りなくなる事請け合いなのですが・・(苦笑)
出演俳優の年令の高さから「高齢大河ドラマ」の別名もある「葵・徳川三代」
この「葵 徳川三代」が放送された2000年(平成12年)当時に話題となったのが、この葵における出演俳優さんたちの平均年齢の高さです。「高齢大河」等と呼ぶメディアもいましたね。
そこで、どの程度な高齢具合なのか実際の登場人物の当時の年齢と出演俳優さんたちの年齢を比較してみたいと思います。例として、第1話の関ケ原の戦いの主要人物たちとその人物を演じた俳優さんで比較してみましょう。俳優さんの年齢は放送当時(2000年)、登場人物の年齢は関ヶ原合戦当時(慶長五年/1600年)時点でのともに数え年としています。
関ケ原の戦いでの東軍(徳川家康方)武将の実年齢と俳優年齢
東軍武将 年齢 俳 優 名 年齢
徳川家康 58 津川雅彦 61
徳川秀忠 22 西田敏行 54
結城秀康 27 岡本富士太 55
松平忠吉 21 寺泉憲 54
本多正信 63 神山繁 72
本多正純 36 渡辺いっけい39
本多忠勝 53 宍戸錠 68
榊原康政 53 清水紘治 57
井伊直政 40 勝野洋 52
鳥居元忠 62 笹野高史 53
福島正則 40 蟹江敬三 57
加藤清正 39 苅谷俊介 55
黒田長政 33 山下真司 50
浅野幸長 25 渡辺裕之 46
細川忠興 38 ささきいさお59
藤堂高虎 45 田村亮 55
池田輝政 36 磯部勉 51
関が原の戦いでの西軍(石田三成方)武将の実年齢と俳優年齢
西軍武将 年齢 俳 優 名 年齢
石田三成 41 江守徹 57
毛利輝元 48 宇津井健 70
上杉景勝 45 上條恒彦 61
宇喜多秀家29 香川照之 36
島津義弘 66 麿赤児 58
島津豊久 31 山口祐一郎 45
大谷吉継 41 細川俊之 61
吉川広家 40 なべおさみ 62
小早川秀秋19 鈴木一真 33
安国寺恵瓊64 財津一郎 67
小西行長 43 菅生隆之 49
立花宗茂 34 大和田伸也 54
増田長盛 56 佐藤慶 73
長束正家 39 黒沢年男 57
関ヶ原の戦い時点での女性たちの実年齢と俳優年齢
女 性 年齢 女 優 名 年齢
お江 28 岩下志麻 60
淀殿 32 小川真由美 62
お初 31 波乃久里子 56
阿茶局 46 三林京子 50
於大 73 山田五十鈴 84
於万の方 54 長内美那子 62
お梶の方 23 森口瑤子 35
まつ 54 汀夏子 55
細川ガラシャ38 鈴木京香 33
女性の登場人物に関しては、実在の人物の誕生年が不明の人物が多いので少し人数が少ないのはご容赦ください。
関ヶ原にがっつり絡んだ大物武将と大物俳優さんを関ヶ原での東軍と西軍と両軍の女性たちに分けてピックアップしてみました。どうでしょう。実際の武将よりもかなり実年齢の高い俳優さんを選んでいますよね。特に物語の中枢となる徳川家の一門がそうなっているので、その主演級に合わせた年齢の俳優さんを選んだ結果、全体的名平均年齢が上がったというのが正解ぽいですね。
そのせい(キャスト全体の高年齢化)かどうかはわかりませんが、この「葵 徳川三代」という大河ドラマはわたしが見た大河ドラマの中でも重厚さという意味ではトップクラスです。
年々低年齢化が進んでいるドラマ界にあってある意味革命的なドラマといってもいい存在だったのかもしれませんね。
古き良き重厚感あふれる大河ドラマの様式美を求めるなら「葵徳川三代」でしょ!
年配の大河ドラマファンの方々の中の意見としてよく見かけるものに、最近の大河ドラマには重厚感が足りないというものがあります。重厚感とは、古き良き大河ドラマの持つ独特の様式美のようなものだと個人的には解釈しているのですが、そういった大河ドラマファンの欲求をここ20年くらいの間で最も満たしてくれる大河ドラマこそこの「葵~徳川三代」なのではないでしょうか。この作品以外の最近のドラマでは、2007年の「風林火山」くらいしか重厚感あふれる大河ドラマというのはちょっと思い起こせませんね。
もちろん年齢層が高ければイコールで重厚感のある大河というわけではありません。
しかしこの「葵徳川三代」の場合は、荘厳でスケールの大きな岩代太郎のオープニングテーマ、大河ドラマの何たるかを誰よりも知っている名脚本家、ジェームス三木の素晴らしい脚本、そしてベテラン俳優たちの見事な熟練の熱演によって、長き歴史を持つ大河ドラマのいい意味での様式美を体現することに成功しています。
残念ながら1975年の「元禄太平記」以前の大河ドラマは全話完全版が見られません(理由は“全話完全版がある大河ドラマ”記事を参照)。古き良き大河ドラマを完全全話放送版で楽しみたいという方には、この「葵 徳川三代」をお勧めします。絶対に満足してもらえることを保証します。
コメント
4月からのBS放送を欠かさず録画(永久保存)しています。素晴らしい!の一言に尽きます。「古き良き大河」の最高到達点の一つですね。昔の大河って、よくよく観るとセットや合戦シーンは今ひとつな事が多いのですが演技・演出の素晴らしさに引っ張られてあまり気にならなかったのだと最近感じているところです。その点で「葵 徳川三代」は高い次元でのトータルバランスがすごいと思います。先日(第6回)では鳥居元忠と家康の今生の別れのシーン(BGMを最小限にした上質さ!)の直後に側室たちの家康争い⁈と、人間の様々な部分を余すところなく捉えていて改めて感心しました。全体的には情報量や登場人物の密度が高いですねぇ!歴代大河屈指の濃さですね。
確かに昔の合戦シーンはしょぼかったり使い回しが多かったりだし、セットなんかもツッコミどころ満載だったりしますよね。
おっしゃる通り「葵 徳川三代」は本よし演出よし役者よしに加えて最高峰の合戦シーンも揃えてある、まさに完璧な大河ドラマですね。
現時点でジェームス三木さんの大河ドラマはこの作品が最後になっているんですよね。もう一度登板してほしいんですけどご高齢なんで厳しいんでしょうか…
あと、倉本聰さんの大河も是非見てみたいんですけど「勝海舟」の時の経緯を考えるとこれも無理なんでしょうね。
やっぱり脚本って大事だなと改めて思いますね。そういう意味では来年の「麒麟がくる」は「太平記」の池端俊策さんということで期待してるんですが…