名作と呼ばれるアルバムは数多くありますが、音楽好きであれば、誰しも何枚かのアルバムは神と呼んでもいいほどお気に入りがあるはずです。
わたしにとってそんな神アルバムのうちの1枚が今回ご紹介するアメリカ・シアトルのHR/HM(ハードロック・へヴィ・メタル)バンド、クイーンズライチの「オペレーション・マインドクライム」なのです。
敢えてクイーンズライチと表記しましたが、現在ではネイティブな発音により近い「クイーンズライク」と呼ばれているバンドです。わたしにとってはクイーンズライクという呼び方はやはり何となく座りが悪くて落ち着きません(苦笑)。ここでは敢えてクイーンズライチと呼ばせてもらいます。
1988年発売 「オペレーション・マインドクライム(Operation: Mindcrime)」
クイーンズライチのオペレーション・マインドクライムは1988年に発売された3枚目のフルアルバムです。
一つの物語をテーマとしてアルバム全編が統一されたコンセプトアルバムであり、全米チャートの最高位は50位。売り上げは彼らのアルバム初となるプラチナム(100万枚)を記録しました。
本格的な母国アメリカでの成功は次作の「エンパイア」となるのですが、この「オペレーション・マインドクライム」は本国アメリカと同様かそれ以上にここ日本やイギリスを中心とするヨーロッパで好意的に受け入れられ、発売と同時にとんでもない傑作アルバムだという評価を獲得する事となりました。
以下がこのアルバムに収録されている曲順です。
1. “I Remember Now”
2. “Anarchy—X”
3. “Revolution Calling”
4. “Operation: Mindcrime”
5. “Speak”
6. “Spreading the Disease”
7. “The Mission”
8. “Suite Sister Mary”
9. “The Needle Lies”
10. “Electric Requiem”
11. “Breaking the Silence”
12. “I Don’t Believe in Love”
13. “Waiting for 22”
14. “My Empty Room”
15. “Eyes of a Stranger”
このうち1,2,10,13,14はインストゥルメンタルであり、SEを中心としたつなぎの曲となっています。
オペレーション・マインドクライムのストーリー
麻薬中毒者の若者・ニッキーは地下犯罪組織のドクターXによって洗脳された暗殺者でもあり、自分の行う犯罪は全て革命のためであると信じて疑わなかった。
そんな哀れな境遇のジャンキーであるニッキーの心の支えとなっていたのが教会のシスター・メアリーであった。彼女こそがニッキーの心のよりどころであり、彼の荒んだ心をいやしてくれる唯一の存在だったのである。
しかしそんなニッキーにドクターXから非情な命令が下される。彼に与えられた命令は「シスター・メアリーの抹殺」。シスター・メアリーの素顔は組織の連絡役であり、組織の者たちに体を売っていた売春婦であったのだ。
苦悩するニッキーだったが、メアリーは全ての事情をニッキーに打ち明ける。ニッキーは彼女を連れて逃亡する事を決意。メアリーを散々いいように利用してきた悪徳神父のウイリアムを殺害して逃亡、組織を裏切ってしまう。
しかしニッキーの逃亡生活は長くは続かなかった。唯一のニッキーの良心であったメアリーは組織によってその命を奪われ、しかもメアリーの殺人容疑はニッキーにかけられる事となった。
ジャンキーとしてだけでなく精神まで崩壊したニッキーは殺人者として捕らえられ、廃人同様となって病院へと送られる。そして忌まわしい記憶との格闘の日々を送るのであった・・
「I Remember Now・・」というニッキーのセリフで幕を開ける壮大なるロック・オペラ
このアルバムは病院内と思しきSE(効果音)で幕を開けます。口笛を吹きながら患者に話しかける看護師。注射を打とうとする看護師の声を聴きながら混濁する意識の中で主人公は何かを思い出して呟きます。
「I Remember Now・・(思い出したよ・・)」
そしてこの音楽史に残る壮大なロック・オペラは幕を開けるのです。1,2と短いインストを経てマイケル・ウィルトンらしい正統派ハードロックナンバーの「レヴォリューション・コ―リング」です。
そしてタイトル曲でもあるミドルテンポな4曲目へとたたみかけます。
続いて冒頭のSEからフェードインするギターリフが鳥肌もののこれまたウィルトンの名曲「Speak」へ・・ヴォーカリスト、ジェフ・テイトの低音から高音まで操る表現力の凄さを体感すべし!
そして直訳すれば「病気を広めろ!」の意味の「スプレッディング・ザ・ディシーズ」へと続きます。途中で放送禁止用語のため「ピー音」入りますがお気になさらず(笑)。スピークからの流れはまさに圧巻。サビメロのカッコよさはこのアルバムナンバーワンかも。ヴォーカルのジェフ・テイトのハイトーンヴォーカルが炸裂する渾身の名曲です。
クリス・デ・ガーモが奏でる美しすぎる中盤の大作二曲へ・・そしてニッキーの運命の歯車は回り出す・・
そしてここからはマイケル・ウィルトンとツインギターを組むもう一人のソングライター、クリス・デ・ガーモのターン(笑)。マイナー長の美しくも物悲しいミディアムナンバー「ミッション」はまさにデガーモのセンスを凝縮させたような素晴らしさ。泣きのギターも素晴らしい。
そしてこのアルバムの最大のハイライトというべき10分を超える超大作のシンフォニック・メタルの元祖といえる曲、「スイート・シスター・メアリー」へ。
のっけから何かを予感させるSEとコーラス。まさにこれぞ究極のロック・オペラ。曲は10分という時間を全く感じさせない緊張感を維持させ、ドラマティックな展開は全く間延びすることなく一気に聞かせてしまいます。途中のメアリーとの掛け合いも素晴らしいの一言。とにかくこの曲を聞けばクリス・デ・ガーモという男の天才的な作曲能力の恐ろしさを肌身に感じるはずです。鳥肌もんですわ。
そしてこの後、ウィルトンの疾走系ハードロックチューンの「ニードル・ライズ」と1分強のインスト「エレクトリック・レクイエム」を挟んでいよいよ物語は終盤へ・・
物語は怒涛のラストへ・・そしてアルバムラストを飾るは名曲「アイズ・オブ・ア・ストレンジャー」
ココから再びクリス・デ・ガーモの曲が続いて物語は終焉へと向かっていきます。
まずはミディアムナンバー「ブレイキング・ザ・サイレンス」。この曲ではベースのエディ・ジャクソンとドラムのスコット・ロッケンフィールドがその実力を如何なく発揮しています。特にスコットのアグレッシブでタイトで正確なドラミングは地味ですが、間違いなくロック界屈指の実力です。まさにセンスの塊のようなドラミングです。
そしてシングルカットされた「アイ・ドント・ビリーヴ・イン・ラヴ」へ。
Bメロからサビへと続く流れはまさにクイーンズライチにしか出せないと言った、まさにこのバンドならではの名曲です。へヴィでありながらキャッチーな要素もあり、このアルバムでは比較的とっつき易い曲と言えるかもしれません。もちろん名曲です。当たり前です(笑)。
そして「ウェイティング・フォー・22」と「マイ・エンプティ・ルーム」という美しすぎるインストナンバー2曲を経ていよいよこのロック・オペラ最後の曲、「アイズ・オブ・ア・ストレンジャー」へ・・
誰が何といおうと、クイーンズライチの全ての楽曲の中で最高の曲です。最高の曲を一番最後に持ってきやがりました。そして間違いなくこの歴史に残る名盤のラストを飾るにふさわしい曲です。
完璧な曲というものがこの世に本当にあるのであれば、正にこの曲こそその言葉に相応しいといえるでしょう。
もういちいちどこが凄いとかあそこがカッコいいなんていう細かい説明は省きます。とりあえず聞いてみてください。
そして再び場面は冒頭の病院のシーンへ・・混濁する意識の中、ニッキーは何かを確信したように再び力強く呟きます。
「I Remember Now!(思い出したぜ!)」
クリス・デ・ガーモとジェフ・テイトが再び戻ってくる日を待ちながら・・
2016年現在、クイーンズライチからはこの「オペレーション・マインドクライム」当時のヴォーカリスト、ジェフ・テイトとギタリストのクリス・デ・ガーモが脱退しています。
クイーンズライチの代名詞ともいえる表現者・ジェフとマイケルと並ぶ曲つくりの中心であったクリスの脱退によってクイーンズライチは苦難の道を歩みながらもバンド活動を継続しています。
しかしやはりクイーンズライチはジェフ・テイト、クリス・デ・ガーモ、マイケル・ウィルトン、エディ・ジャクソン、スコット・ロッケンフィールドの5人であって欲しいというのは恐らくクイーンズライチファンの多くが願っている事だと思います。
このアルバムはこの類い稀なる才能を持った5人だからこそ作り得た神アルバムであると思います。
いつの日か再びこの5人が集結してニューアルバムを制作する日を心から待ち望んでいます。そして出来る事ならばこの「オペレーション・マインドクライム」を凌駕するアルバムを世に送り出してほしいものです。
コメント
もう一度ライブを見たいバンドの一つです。
Breaking the silence だけはかなり前にいたバンドでやりましたが、本当はすべての曲をやってみたかった。そんなアルバムですね。そして、このアルバムは組曲だから、超長い1曲だと思ってます。クリス、戻んないかな…。
そうですね、超長い1曲・・まさにその通りですね。
そして、やっぱりこのバンドはクリス・デ・ガーモが抜けた時点で取り返しのつかないものを失ってしまったという感じですね。やっぱりクリスの曲があってこそのマイケルらの曲なんですよねえ・・。
突然のコメントでした。失礼しました。
たまたま、昨夜、このライブアルバムを聴いていて、クリスのシグネチャーモデルのギターを検索してたら、このブログに辿り着きました。作曲面では天才ですね。ギターヒーローではなかったけど、そのヒーローたちに勝るコンポーズ力を持っていました。
デフレパードのスティーブにも同じ力を感じます。とっくに亡くなってますけど。
曲の良さで言うと、断然、クイーンズライクが頂点です。アリス・イン・チェインズとサヴァタージが追随しています。私の好きなバンドを並べただけですが。
スティーヴ・クラークですか、なるほど。確かにコンポーザーとしての能力に秀でているという点で同じですね。デフ・レパードもスティーブの曲が無くなった「スラング」から明らかに作品の質が変わりましたからね。
後任のヴィヴィアン・キャンベルはディオ時代から大好きなギタリストですけど、やっぱデフ・レパードって言われると「んー・・?」ってなっちゃうんですよねえ・・
嬉しくて思わずコメントさせて頂きました。ビートルズやザ・フー、ツェッペリンやらクリームやら色々聞きましたが、最高のアルバムは?と聞かれたら迷わすオペレーションマインドクライムと答えます。クリムゾンやクイーンにある、ちょっとしたストレス(アレンジ的)がなく、かと言ってフュージョンの様な小難しさもない。初めて聞いたおよそ30年前から変わらず私の最高のアルバムでございます。
全く同感です。30年以上経つのに全く色あせることのないアルバムです。まさに歴史に残る名盤だと思います。