1970年代に多くの名バンドを輩出し、1990年代初頭にかけて黄金期を迎えたハード・ロック。1980年代にはLAメタルの隆盛等によってヘヴィ・メタルというジャンルを確立してさらにその勢いは加速し、1990年代前半にグランジ・ロックが一大ムーブメントを形成するまで世界を席巻しました。
多くの名バンドを輩出したハード・ロック/ヘヴィ・メタルですが、バンドの中での花形といえばやはりギタリストでしょう。数多くのギターヒーローを生み出したこのジャンルでしたが、そんなスーパーギタリストによる新バンドデビューが集中したのが1989年(平成元年)。
ここでは1989年に大きな注目を集めてデビューしたスーパーバンド3組をご紹介してみましょう。
元ホワイトスネイク/ジョン・サイクスのブルー・マーダー(Blue Murder)
デイヴィッド・カヴァデール率いるホワイトスネイクのアルバム「スライド・イット・イン」収録の「ラヴ・エイント・ノー・ストレンジャー」PVでギターを弾くブロンドのイケメンこそ“サイクシー”ことジョン・サイクス。若くしてタイガース・オブ・パンタンやシン・リジィといった人気バンドにスカウトされたバリバリのギターヒーローです。
そんなジョン・サイクスの世界的名声を一気に高めたのがホワイトスネイク加入。ホワイトスネイクはアルバム「サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)」で全米2位というメガヒットを飛ばすのですが、実はこのアルバムで殆どの曲を作ったのがジョン・サイクスでした。ジョンはこのアルバムが大ヒットする前にバンドを脱退してしまったのですが、間違いなく「白蛇の紋章~サーペンス・アルバス」大ヒットの大功労者だったのです。
そんなジョン・サイクスがホワイトスネイク脱退の翌年の1988年に結成したのが「ブルー・マーダー(Blue Murder)」。結成メンバーは以下の通りです。
ヴォーカル&ギター:ジョン・サイクス
ベース:トニー・フランクリン
ドラム:カーマイン・アピス
なななんと、あのジョン・サイクスがヴォーカリスト??ジョンがヴォーカルも兼任するというこの発表はという事はハードロックファンに大いなる衝撃を与えました。フレットレスベースを操る元ザ・ファームのトニー・フランクリン、ハードヒット奏法やツーバス等ハードロックドラマー像を確立したともいわれる超大物ドラマー、カーマイン・アピスという凄すぎるリズム隊を従えての3ピース構成もまたファンの期待を掻き立ててくれましたね。
そして1989年にブルー・マーダーはデビューアルバム「ブルー・マーダー(Blue Murder)」を発表しました。
この曲は3曲目の「ヴォリー・オブ・ザ・キングス(Valley Of The Kings)」。ミドルテンポの重厚で劇的なヘヴィ・サウンドはまさにホワイトスネイクの「サーペンス・アルバス」のゴージャスでドラマチックなハード・ロックサウンドを彷彿とさせます。
にしても、ジョンがこれだけ歌えるとは…大丈夫なん??と心配していましたが、このアルバムを一聴して完全なる杞憂に終わってホッとしたのを覚えていますね(笑)。
とにかくこの1stアルバムの出来は素晴らしい。とにかく楽曲がいいのです。サウンドプロダクション的には劣りますが曲の良さは互角、ジョンのギタープレイはこっちの方が上です。個人的には「サーペンス・アルバス」より好きです。特に「ビリー」「ライオット」「ブラック・ハーティド・ウーマン」「セックス・チャイルド」辺りは問答無用のカッコよさです。まだ聞いてない人は是非!!
アルバム中最もポップな「ジェリーロール」もご紹介。
ブルー・マーダー最後のアルバムとなった2nd「ナッシング・バット・トラブル(Nothin’ But Trouble)」からの最強チューンである「ウィ・オール・フォール・ダウン」もご紹介しておきましょう。これがまた…最高にカッコいいのであります。
元レーサーX/ポール・ギルバートのMR.BIG(ミスター・ビッグ)
続いてご紹介するギターヒーローはここ日本ではお馴染みのポール・ギルバート。大の親日家として有名で、一時期は日本在住でKinKi Kids(キンキキッズ)司会の人気番組「LOVELOVEあいしてる」なんかにも出演していたので洋楽ファンでなくとも知っている人も多いのではないでしょうか。
メタルファンの中では知る人ぞ知る超絶テクバンド「レーサーX(Racer X)」のギタリストとして次世代のギターヒーローと目されていたポールが参加して1989年に「MR.BIG」でデビューしたのがご存知、MR.BIG(ミスター・ビッグ)なのです。
いやいややっぱこの2人はスゲーです(笑)。当時ハード・ロック界最強のベーシストと呼ばれたビリー・シーン(個人的にはシーハンの方が通りがいいんですが笑)とポールの超絶テクニックを誇る最強コンビ。まさにベースとギター双方のヒーロー競演なのであります。イントロからいきなりのユニゾンでのタッピング、中間部では最強のソウルフル・シンガーであるエリック・マーティンのヴォーカルを交えたソロバトル…メタルファンが待ち望むスーパーバンドが誕生した瞬間でしたね。ちなこの曲は同アルバム1曲目の「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ(Addicted To That Rush)」です。
殆どメンバー紹介終わってしまいましたが(爆汗)、MR.BIGのメンバーは以下の通りです。
ヴォーカル:エリック・マーティン
ギター:ポール・ギルバート
ベース:ビリー・シーン
ドラム:パット・トーピー
ポールとビリーは前述の通り、HR/HM界を代表するテクニシャンとして有名でしたし、VOのエリックはソロや自身のバンドでキャリアを重ねてジャーニーのニール・ショーンとの共作バラード「Just One Night」などのヒット曲で知られたシンガー、ドラムのパットも速弾きギタリストのクリス・インぺリテリ率いるインペリテリに参加していた実力派ドラマー。まさにファン垂涎の実力派揃いの“スーパーバンド”だったのです。
しかしながらこの1stアルバムは期待通りのセールスは記録できず…でしたが、彼らは2枚目のアルバムからシングルカットされたこの曲で見事に全米1位を獲得して一躍メジャーバンドとなりました。
「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」です。日本でも大ヒットしました。エリック・マーティンのソウルフルなヴォーカルを最大限に生かしたエリック作の名バラードですね。
でも2nd「リーン・イントゥ・イット(Lean Into It)」で一番好きなのはアルバムトップを飾るこの曲…という事で最後にご紹介しておきます。
ギタリストの度肝を抜いたポールの電気ドリル奏法でも有名なこの「ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトルボーイ(Daddy, Brother, Lover, Little Boy)」、やっぱハードロックファン、ギターキッズにはこの曲でしょう。
ドリル奏法はエディ(エドワード・ヴァン・ヘイレン)よりポールの方が先なのですよ!
元オジー・オズボーン・バンド/ジェイク・E・リーのバッドランズ(BADLANDS)
1989年(平成元年)にデビューしたスーパーギタリストによる新バンドのトリを飾るのがこのギタリストが結成したバッドランズ(BADLANDS)です。
オジー・オズボーン・バンドのギタリストとしてギターヒ―ローとなったジェイク・E・リーです。母親が日本人のハーフという事もあり、そのギタープレーも含めて日本でも大変人気のあったギタリストです。憚りながらマイケル・シェンカー、ジョージ・リンチと並んでわたしが最も好きだったギタリストでもあります。
上記PVはそのジェイクが久々に音楽シーンに戻ってきて結成したバンド「レッド・ドラゴン・カーテル(Red Dragon Cartel)」です。60歳を超えてルックスはかなり代わったジェイクですが、ギタープレイは存分に“らしさ”を発揮していますね。
そんなジェイクがオジーオズボーンにバンドを解雇されて結成したのがバッドランズ。結成メンバーがこちらになります。
ヴォーカル:レイ・ギラン
ギター:ジェイク・E・リー
ベース:グレッグ・チェイソン
ドラム:エリック・シンガー
上記2バンドに比べたら若干リズム隊の知名度が落ちますが、それでも十分な実力派揃いでしたね。特にヴォーカルのレイ・ギランはもっと評価されて然るべきヴォーカリストだと思います。伸びのあるハイトーンでありながらパワフルな声はジェイクのギタープレイと非常に相性が良く、ブルージーな曲からハード・ロックまで全てをこなせる万能派シンガーでした。
バッドランズのスタイルはブルースを基調としたハードロックでしたが、同じくブルージーなハードロックで大成功した同時代のグレイト・ホワイトやシンデレラと違ってコマーシャリズムに迎合しない姿勢が仇となったのか、アルバム2枚を発表した時点で契約を切られてしまいました。ギターキッズにとっても、オジー時代の派手なスタイルを期待していたファンには意表を突かれた感は否めません。
でもバッドランズは個人的には好きな曲がたくさんあるし、ジェイクのブルージーなハードロックはそれはそれでまた最高にカッコよかったのですが…。もっと評価されていいバンドだけに残念です。
しかし、ジェイクが久々に音楽シーンに戻ってきたのは本当に嬉しい限りです。これからも動向を追っていきたいですね。
最後に、オジー時代のジェイクの曲をご紹介してお開きにしましょう。ギターリフといい、ギターソロ(短いけど最高です)といい、ジェイクのセンスが凝縮されている曲です。
んー、なんでオジー・オズボーンはこのギタリストを解雇したんだろーか…??ともかく、何十年経っても色あせない名曲ですな。いや、なんでオジーは…(略)
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