毎クール10本以上の新ドラマが始まっては終わるという放送サイクルが繰り返される日本のテレビ業界ですが、そんな中で本当に“最高に面白くて毎週が楽しみ”と思えるドラマはそうそうあるものではありません。
テレビ離れが叫ばれてドラマも低視聴率の方が話題になる昨今、最高に面白くて皆さんにおススメしたいというドラマに久々に出会えましたので、ちょっとご紹介しておきたいと思います。そのドラマこそTBSの伝統のドラマ枠、金曜10時からの「金曜ドラマ」で2018年1月から放映された「アンナチュラル」です。多少のネタバレはありますがご容赦下さい(物語の核心についてはもちろん言及しません)。
TBSドラマ「アンナチュラル」の番組概要&あらあすじ(ストーリー)
まずはドラマ「アンナチュラル」の簡単な番組概要を。
ジ ャ ン ル:医療ミステリー
放 送 期 間:2018年1月12日~3月16日
放 送 時 間:毎週金曜日22:00~22:54
ド ラ マ 枠:金曜ドラマ枠
放 送 回 数:全10話
制作放送局 :TBS
音 楽:得田真裕
主 題 歌:米津玄師「Lemon」
プロデューサー:新井順子、植田博樹
脚 本:野木亜紀子
主 演:石原さとみ
演 出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、村尾嘉昭
全話平均視聴率:11.1%
最高視聴率回 :13.3%(最終回)
最低視聴率回 :9.0%(第5話)
アンナチュラルのあらすじ・ストーリー
ドラマの舞台は「UDIラボ」。
UDIラボとは英語で「Unnatural Death Investigation Laboratory」。直訳して“不自然死調査研究所”。
この「UDIラボ」の使命は、ほとんど解剖される事無く荼毘に付されていく不自然死(アンナチュラル・デス/UNNATURAL DEATH)による遺体、これを放置することなく解剖し、全ての真実を明らかにしていく事にあった。
この「UDIラボ」に運ばれる多くの“アンナチュラルな死”による御遺体、そこに隠された様々な真実を“不自然な死が放置される事を何よりも許せない”女性法医解剖医・三澄ミコトが解決していく物語である。そしてUDIラボのもう一人の法医解剖医・中堂系にまつわる因縁の事件を巡り、UDIラボは不気味な未解決事件に巻き込まれていくのであった…
最高の医療ミステリーであり極上のヒューマンドラマでもある野木亜紀子脚本
ジャンルは医療ミステリー。今巷にあふれている「医療ドラマ」と「ミステリーもの」をミックスさせたものです。ぶっちゃけ、このドラマを実際に見るまでは「またかよ」という食傷気味ゆえなネガティブ意見だったのですが、第1話を見終わってそんな短慮な自分を猛省するとともに、スタッフと演者の皆様に土下座したい気にかられたのは言うまでもありません。
この「アンナチュラル」が近年安易に量産されている感のある「医療もの」とも「ミステリー」とも一線を画するドラマとなっている一番の理由はやはり脚本の野木亜紀子氏による本の面白さでしょう。野木さんといえば、ガッキ―と星野源による恋ダンスで話題になった「逃げるは恥だが役に立つ(通称:逃げ恥)」や「図書館戦争シリーズ」を手掛けた新進気鋭の脚本家です。中でも個人的には「重版出来(じゅうはんしゅったい)」は神ドラマだと思いますね。
1話完結の物語ですが、ハッキリ言って事件解決や真実解明による「爽快感」や「カタルシス」はありません。スーパードクターが超人的施術によって弱い立場の患者を救って大団円…だとか、超優秀な刑事たちが見事な連係プレーで事件を解決してハッピーエンド…といった類の物語ではないという事です。
UDIラボに運び込まれた遺体にまつわる悲しい真実やエピソードによって、遺体がアンナチュラル・デスから解放されたとしても物語は決してハッピーエンドで終わるわけではありません。だが、それがいいのです。だからこそこのドラマは素晴らしいのです。
遺体に関する謎解きも当然素晴らしいのですが、その奥に秘められた悲しい物語、その描き方が圧倒的に視る者の心を打ちます。毎回毎回色々な事を考えさせられるとともに、「死」というものに嫌でも向き合う事を余儀なくされる事でしょう。
ですが何回も言うように、「だからこそいい」んです。この「アンナチュラル」というドラマ、最高の医療ミステリードラマなのに加えて、極上のヒューマンドラマでもあるのです。
ハッキリ言いますが、すっきり爽快な物語をご所望の方にはおススメしません。ですが、必ずや大きな何かを見る者の心に残してくれるドラマだという事は保証しましょう。
井浦新、窪田正孝、松重豊、市川実日子、ずん飯尾…主役を食う程のUDIラボメンバーたち
素晴らしいドラマに欠かせない最高のキャスティング、これもまた「アンナチュラル」が名作である事の証です。特に物語の舞台となる「UDIラボ」で真実を追求するメンバーたちは全員が全員これでもかって程にキャラ立ちしており、どの人物も魅力溢れるキャラクターとなっています。以下、「UDIラボ」でアンナチュラル・デスに挑むメンバーたちです。
三澄ミコト(みすみみこと) 演:石原さとみ
法医解剖医でUDIラボ三澄班の筆頭医。
中堂系(なかどうけい) 演:井浦新
法医解剖医でUDIラボ中堂班の筆頭医。
久部六郎(くべろくろう) 演:窪田正孝
UDIラボ三澄班の新人記録員。
東海林夕子(しょうじゆうこ)演:市川実日子
UDIラボ三澄班の臨床検査技師。
坂本誠(さかもとまこと) 演:飯尾和樹(ずん)
UDIラボ中堂班の臨床検査技師。
神倉保夫(かみくらやすお) 演:松重豊
UDIラボ所長。
主人公の三澄ミコト(石原さとみ)と裏主人公の中堂系(井浦新)を中心として物語は進んでいくのでこの二人のキャラが濃いのは当然なのですが、他の4人もまあ素晴らしいのです。
久部六郎役の窪田正孝さんは実年齢29歳と思えぬ、いい意味での六郎の「青臭さ」を出してくれていました。週刊誌記者のスパイとして、そして医者になる事の意味に対する葛藤や自己矛盾などをちょっとした表情や仕草などで見事に表現していましたね。個人的には主人公のミコト、裏主人公の中堂にこの六郎を加えたトリプル主人公といってもいいと思いますね。
「天下り」と揶揄されるお茶目な神倉所長役の松重豊さん。名バイプレーヤーぶりをこれでもかと発揮してくれました。とぼけたようでしっかりラボメンバーを温かく見守り行動する良き上司です。とぼけているようですが実はかなりの切れ者ですね。第8話でのミッキー・カーチスさん演じるヤシキさんとのエピソードは泣けましたなぁ…
UDIラボきっての癒し系(?)、ムーミン大好き坂本さん(ずんの飯尾和樹)もいい味出してました(笑)。一時期は中堂のクソ連発のパワハラぶりに我慢できずにラボを辞めましたが、最後は元鞘に収まってくれましたね。
そしてそして、外せないのが東海林夕子役の市川実日子さんでしょう。このドラマで女優版名バイプレーヤーの代表格に上り詰めたといっていいでしょう。三澄ミコトとの軽妙なガールズトークや神倉所長へのツッコミ、六郎いじりなど(笑)、この人なくして「アンナチュラル」の独特の世界観は醸し出せなかったであろうといっても過言ではありません。このドラマの裏MVPでしょう。
とにかく誰一人欠けてもドラマの世界観は成立しないだろうという程魅力的なキャラクターたちですね。特筆すべきは、このメンバーたち全員が仕事の出来る凄腕のプロフェッショナルだというところでしょう。このメンバー全員が主人公となってスピンオフ作品を作れるほどにどのキャラも見事にキャラ立ちしています。この辺りも脚本の見事さと俳優さんの力量が融合した結果だと思いますね。書く方も見事なら演じる方も凄いという事です。「臨床検査技師・東海林夕子」とか「新人記録員・久部六郎」とか絶対に見てみたいですなぁ…TBSさん御検討下さい。あ、その前に続編ですよね、坂本帰ってきて6人に戻ったしね(笑)。
北村有起哉や薬師丸ひろ子ら準レギュラー陣に我が家・坪倉ら各話ゲストも多彩
物語の舞台となるUDIラボの6人は前述したように実力派の俳優さんによって、全員がスピンオフで主人公を張れる程見事にキャラ立ちしているのですが、それ以外の俳優さん達もいい味出してる実力派ばかりです。
まずは怪しげなフリー記者の宍戸役の北村有起哉さんと、「週刊ジャーナル」編集の末次役の池田鉄洋さん。どちらもくせ者感満載のこの二人ですが、最終回で見事に分かれる明暗は予想だにしていませんでした。この二人もこのドラマのキモと言っていい重要人物ですが、お二人ともさすがの実力で見事な好演でした。
葬儀屋の木林役の竜星涼さんも意味ありげなこのクセのある役で終盤まで我々視聴者の想像力を働かせてくれました。西武蔵野署の毛利刑事役の大倉孝二さんも流石でしたね。基本的に余計な事件を増やしたがらないやる気なしの刑事役でしたが、最終回は結構カッコよかったです(笑)。
主人公・ミコトの養母役の薬師丸ひろ子さんは贅沢な特別出演でしたね。特別出演という事で、あまり出番は多くありませんでしたが、続編では物語の核心に絡んでくる重要人物としての再登場を期待したいですね。
そして何より見逃せないのが、毎話登場するゲストたちの熱演です。
第3話と最終話で時にはUDIラボの敵、時には味方として登場する烏田検事(吹越満)も切れ者のくせ者という、吹越さん得意の役どころでハマってましたね。第5話で恋人を殺された鈴木巧(泉沢祐希)、第7話で自殺した高校生(神尾楓珠)と実況によって復讐を果たそうとした高校生(望月歩)も行く先のない悲しみを見事に表現していました。前述した第8話でのミッキー・カーチスさんと、息子を亡くした父親(木場勝己)も素晴らしかった。
そして一番泣かせやがったのは第4話での佐野祐斗役の坪倉由幸。そう、あのお笑いトリオ「我が家」のイケメンさんです。これがまた素晴らしかったのです。ホント泣かせます。ちなみにこの回のキーポイントとなった「幸せの蜂蜜ケーキ」ですが、ドラマのロケ地となった亀印製菓から数量限定で実際に発売されました(笑)。
「ケイゾク」「SPEC」の植田博樹の作る世界観と米津玄師の名曲「Lemon」(MV動画有)
同じTBS金曜ドラマで過去に人気を博した「ケイゾク」や「SPEC」に何となく雰囲気が似ていると思った人もいるのではないでしょうか。まあわたしがそうなんですが(笑)。それもそのはず、プロデューサーはその両作でもプロデューサーを務められた植田博樹さんなのです。というわけで、あの一種独特の空気感も納得というわけです。一緒に見ていたうちの嫁なんか、1話目で「なんかこのドラマ、ケイゾクっぽいよね」って言ってましたから。なかなか鋭いのです(笑)
そしてこのドラマで最高のスパイスとなっているのが主題歌、米津玄師さんの歌う「Lemon」です。
この主題歌がとにかく名曲なのです。素晴らしいのです。そしてこの珠玉の名曲が流れるタイミングがまさに神!!毎回毎回必死で涙こらえているところでこの曲がかかるのです。まあ当然の如く涙腺決壊ですわな(涙)。しかし、この曲がこれだけ「アンナチュラル」と一体となっているのには理由があります。米津さんはこの「アンナチュラル」の脚本を読んだうえでこの「Lemon」を作り上げたのです。ドラマの世界と曲が一体となって視聴者の心を激しく揺さぶるのも当然なのです。
とにかくまだ聞いてない人は聞きなはれ、そして泣きなはれ。あとTBSさんに注文。続編決まってもこの曲は外さないでほしいなぁ…
最終回ラストの英文メッセージの意味は?名作ドラマの続編、スピンオフへと続く旅路
とまあ、ここまで「アンナチュラル」がどれだけ素晴らしいドラマであるかをプレゼンしてきたのですが、当然ながらここで全て語り切れる程浅いドラマではありません。だからこそ、まだ見てない人には是非とも見てもらいたいのです。
視聴率的には平均11.1%と、現代の及第点とされる目安である平均2ケタ視聴率はクリアしました。途中3週間ほど(第5話~7話)は平昌オリンピックが裏であったという事を考えてもこの視聴率は大健闘と言えるでしょう(個人的には低すぎだと思いますが怒)。特に最終回で最高視聴率というのは、いかに途中離脱組が少なかったかを物語っていると思いますね。名作ドラマによくあるパターンです。
個人的には続編を信じて疑いません。というよりもこういうドラマの続編作らないでどのドラマの続編作るのさ??くらいのレベルのドラマだと思いますね。ラストて坂本が帰ってきて中堂班復活だし、続編ではもう一人くらいUDIラボに新メンバー加わって中堂班も3人になるのかなあなんて妄想が早くも膨らんでしまいます。そして続編経由からの個性派UDIラボメンバーたちそれぞれのスピンオフ作品…てな感じでしょうか(笑)
ともかく最終回のラストのメッセージ
Their journy will continue(彼らの旅は続いていく)
のjourney(旅)のスペルが間違っているのはどういう意味があるのでしょうか。リアルミスというのは有り得ないので意図的なものであることは間違いないでしょう。eが抜けていることが続編と何かの意味があるのか…このドラマのファンとしては続編への布石と考えて楽しみに待ちたいですね。
とりあえずBlu-ray版出たら即買いは決定しています。ああ…7月まで待ち切れないぜ、クソがッ!!(笑)
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